ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

ふくしナウ

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

臨床美術
五感を通じて感じ取る



 臨床美術は絵を描くことや立体作品を作ることによって脳の活性化を促し、認知症の症状改善や予防に役立てる取り組みです。芸術家・医師・ファミリーケアアドバイザーによって1996年から共同研究がスタートしました。芸術療法にはさまざまなものがありますが、臨床美術は表現する過程を重視して、完成した作品について分析的な見方をしないことが大きな特徴です。


「りんごの量感画」の制作の様子(京都市北区の講座会場)
 自分が絵を描くとなると苦手に感じる方も少なくないようですが、アートプログラムは五感を通じて対象を感じ取るところから誰でも気楽に始められ、いつのまにか夢中になれるように工夫されています。医師とともに研究を重ねたことにより、認知症の改善や予防に有効という可能性を示した臨床データの蓄積もあります。

 そもそも絵は感じるままに描くものであって、感じ方にはうまいも下手もありません。どのように表現しても描き手の自由です。しかし私たちはどこかで絵はそっくりに描かねばならないとか、デッサンができていないとダメだとか、美術の世界を狭く捉えてしまいがちなようです。絵を描くことは自己表現であり、コミュニケーションのひとつの方法です。描くことによってストレスを発散することや意識していなかった自分の感性を発見する経験は、年齢に関係なく誰にとっても楽しく、毎日を新鮮に生きる為の刺激になります。

 また制作に参加してひとときの苦楽を共にした仲間と、最後に作品を味わう鑑賞会は、自分に自信が持てると同時に他者を受け入れることのできる心地よい時間です。臨床美術は美術が持っているこの素晴らしさについて多くの人々に共感を広げ、表現する楽しさを人生に取り入れるひとつのきっかけとなり得るものです。もともとは認知症の方のために始まりましたが、今では子どもの感性教育やビジネスマンのメンタルヘルスケアなど多方面から注目を集め活用されています。

 臨床美術を行うのは美術、コミュニケーション、ケアなどについて専門的な養成教育を受け、特定非営利活動法人日本臨床美術協会によって資格認定を受けた臨床美術士です。現在全国で約2000人の臨床美術士がデイサービスや老人ホーム、病院、個人の教室などで活躍しています。京都においては京都府立医科大学神経内科の協力のもとで認知症患者と介護家族を対象にした講座が、また重度身体障害者の入所施設である桂川療護園でも講座が開催されています。

(京都<臨床美術>をすすめる会代表・フルイミエコ)