ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

ふくしナウ

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

緊急一時宿泊所(シェルター)

各地に借り上げ型開設




利用者から相談を受けるNPO法人の職員
 緊急一時宿泊所(シェルター)とは、ホームレス対策の一つである「ホームレス緊急一時宿泊事業」(略称シェルター事業)で提供される宿泊所の呼称です。

 シェルター事業の始まりは2001年にさかのぼります。当時、大都市でホームレスの増加が社会問題となり、それを背景に国は「ホームレス緊急一時宿泊施設」の設置を促しました。

 しかし同施設の定員は「おおむね50人以上」とされ、設置個所も、06年3月末の時点で横浜市、川崎市、名古屋市、大阪市の4都市に10個所と、大都市に限られていました。

 その状況に変化が生まれたのは09年のことでした。前年のリーマンショックによって派遣切りの嵐が吹き荒れる中、国は「借り上げ型シェルター」を導入しました。その結果、地方都市でもシェルター事業の実施が可能になりました。

 そして15年4月の「生活困窮者自立支援法」施行以降、シェルター事業は、ホームレス自立支援事業とともに同法の任意事業である「一時生活支援事業」に組み込まれました。

 一時生活支援事業で提供される宿泊場所は、ホームレス自立支援施設、施設型シェルター、借り上げ型シェルターの3種類ですが、近年開設されているのは借り上げ型だけであり、他の2つは縮小傾向にあります。

 私が運営に携わる大津市の場合、一時生活支援事業と自立相談支援事業が一体的にNPO法人に委託されています。民間賃貸住宅5室を受託法人が分散方式でシェルターとして借り上げているので、利用者は個室で通常のアパート入居者と同様の生活をすることができます。食事は、1日当たり1500円の金券を渡し、各自で買い物をして自炊してもらいます。また利用期間中、自立相談支援事業とし、住居探し、生活保護などの制度利用、医療機関への受診、求職活動などの支援が行われます。

 京都市のシェルターは、旅館の部屋を借り上げる方式で運営され、一時生活支援事業は旅館経営者に委託、自立相談支援事業は別法人に委託されています。部屋は相部屋で、朝はパンと牛乳、昼食と夕食は弁当が提供されます。

 神戸市の場合は、一時生活支援事業と自立相談支援事業を一体的にNPO法人に委託する点では大津市と同様ですが、ビジネスホテルの部屋を借り上げて使用しています。

 このように、借り上げ型シェルターの運営方法は自治体によって千差万別ですが、それは09年の制度拡充にあたって、設備等の基準を設定せず、旅館、アパート、簡易宿所など既存の建築物の転用を広く認めたことに起因しています。

 今、貧困ビジネスを規制するため、無料低額宿泊所の最低基準の策定作業が進められていますが、私は借り上げ型シェルターにも最低基準を設けて個室を保障すべきであり、一時生活支援事業を必須事業に位置付けて拡充すべきだと考えています。(NPO法人大津夜まわりの会・今村雅夫)