父、静かで、旧国鉄職員。堅物ではないが、まじめな人。僕のおかげで、施設には怒られっぱなしだったが、僕の個性を尊重して、あまりうるさく言わなかった。あの時うるさく言われていたら、詩なんか書いていなかった。僕の知性は、こうやって、育てられた。去年、そんな父も肺気腫で倒れ、息苦しそうで、哀(かな)しい。
妹。小さかったころ、牛若丸と弁慶の絵本を読んでるふりをして、勝手に話を作り、妹に聞かせていた。僕の想像力は、こうして育てられた。今は、怖(こわ)い、しっかりもの(おばはん)に、成長してくれた。兄思いであるが、巨人が負けると喜ぶ。
姉。昔は美人だった。施設の若い男性職員は、紹介しろ、紹介しろとうるさかった。僕の当時の、ただ一つの自慢だった。実は、女性を選ぶ基準が姉のため、どんな美人と言われる人でも、美人と感じたことはなかった。そのため、かなりの美人を逃してきた。
義兄。阪神ファンである我が家に飛び込んだ長嶋ファン。結婚する前に、僕にエロ本を見せてくれた。男として付き合ってくれて、うれしかったのを覚えている。姉には、だめもとで、声をかけたらしい。
母、パーキンソン、背骨の圧迫骨折。本当に、自分のことより、人のこと。孫が来たのが、うれしかったのか、圧迫骨折の手術の麻酔中に、携帯電話を取り出し、すし屋にちらしずしを6人前頼み、それから7時間後、麻酔からさめて妹に一言。「ちらしずし、おいしかったか」
また、こんなこともあった。夜中に怖いサイトを見ていたとき、背中に異様な気配を感じた僕は振り向いた。そこには、手を震わせて、包丁を持って、ナシの皮をむいている母が立っていて「浩之〜、こ〜れ〜、くえ〜」。あの時以来、僕は、夜中に、怖いサイトは見ていない。
この連載の話を、もらった、時に、孫に抱えられながらやってきて「浩之〜〜、これ〜〜、さんこうにしろ〜〜」と、ミミズの、這(は)ったような、解読不能の暗号文を渡し、孫に抱えられながら、去っていった。僕は紛れもなく、この人の子だ。僕は頭があがらない。
こういう家族もあって、楽しく生きられる、世の中にしたいよね。みんな。