ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  精神障害者の就労支援
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会場では約200人が雇用主らの体験に聞き入った


特性に応じた配慮で定着
立場越えたかかわりが大切に



 就職への壁が厚い精神障害のある人に対する就労支援をテーマにしたシンポジウム(京都新聞社会福祉事業団主催)が、このほど京都新聞文化ホールで開かれた。就労実現に向けた取り組みの中で自らの企業のあり方を問い直し、経営を立て直していく事業者の姿などに参加者は大きな感銘を受けていた。

 最初に障害者職業総合センター主任研究員の相澤欽一さんが、雇用促進について基調講演した。

 精神障害のある人が働いている実数は非常に少ないが、同センターの調査では、その雇用主の評価は、総合的に見て問題ない人が44パーセントと、かなり高い。

 職場への定着率は、関係機関が連携したチーム支援や適応指導などサポートが得られたケースでは7割の人が1年以上勤め続けている。働く本人を中心に、行政、医療、福祉の関係者が協力して、本人の特性や働く場合に必要な配慮事項を本人も納得の上で事業主に伝え、本人の特性にあった段階的な就労を具体的にプランニングして提案する。

 定着率の高低は、障害の軽重ではなく、事業所に具体的な支援が行われるかどうかにかかっている。精神障害のある人だからこのパターンでということはありえない。すべての人が違っている、と相澤さんは述べ、きめ細かい本人と受け入れ先への支援が重要だと強調した。

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基調講演する相澤欽一主任研究員
 続いてのシンポジウムには、京都府山城北部地域の保健所、病院、就業・生活支援センター、福祉事業所、企業などが「顔の見える関係」で手を結び、就労に取り組んでいる「はちどり」(山城障がい者就労サポートチーム)のメンバーが参加、体験を語った。

 雇用主である生花店経営の久田和泰さんは、「彼から社長は障害者をもっと雇用しようと考えているんですか、と問われ、あと2、3人は増やしたいと言うと、後輩を指導せないかん、頑張ります、と言ってくれた。彼を雇って本当に良かった」と実感込めて話す。

 支援している福祉事業所代表の林剛さんは「関係者が集まっても最初は分かり合えず、思っていることを出し合って近づく努力をした。彼のことを中心にしてみんな友達になれた。私たち自身が成長した」、保健所の精神保健相談員の時澤久美子さんは「とことんみんなで話し合った。問題が出てきたらすぐ集まるネットワークができた」と、立場を越える支援の大切さを話した。

 飲食店を経営する小山和幸さんは、「最初の雇用は受け入れに失敗して、正直、経営者としてのプライドが崩れました。そこで新たな仕組み作りのため、アルバイトを含む全従業員一人一人と15日間かけて話し合いました。全員が障害者の雇用はすばらしいことと言ってくれたことから、他人があきらめてしまったことや自分たちが格好いいと思えることに挑戦する会社の基本方針が生まれ、全体の士気があがりました」と、経営のあり方に踏み込んで取り組んだ経験を語った。

 この話を聞いて相澤さんは、「根幹から見直して再度挑戦する姿勢に衝撃を受けた。雇用の広がりにとても重要なことだ」と高く評価していた。