ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  自閉症者の就労支援
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実践報告が行われた「アクス」は創業時から障害者雇用率が80%を超えている


いっぱい見えるプラスの面
社会と向き合い、必死のやりとり



 自閉症の人の就労支援を考えるセミナーがこのほど京都市のハートピア京都で開かれ、どう企業への一般就労を推進し、働く人を増やしていくか理解を深めた。

 講演した大妻女子大学教授でNPO法人ジョブコーチ・ネットワーク理事長の小川浩さんは、ジョブコーチの役割について語った。

 小川さんは米国研修で考えが大きく変わったという。そこでは、職場に働きかけて自閉症の人に出来る仕事を「切り出し」てくる、一緒に働く従業員にサポーターになってもらう、分かりやすく仕事を教える技術を身につける、などがジョブコーチによって実践されていた。

 「就労できるかどうかは、障害のある人の力、企業の障害者雇用の力、就労を支援する人の数と実力の3要素のバランスで決まる。最も大切なのは適切な就労支援。それがないと企業と人がつながらない。就労支援のキーポイントがジョブコーチです」。

 ジョブコーチは障害のある人と一緒に働き、教える人と思われがちだ。小川さんはそれは一側面にすぎず、支援している人が一人で長期に働けることを実現するのが仕事だ、という。

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「現実は厳しいがあきらめず、一般就労する人を増やすことを目指したい」と語る小川さん
 実際に職場に入って働いて、仕事を分析、内容を再構成して彼らに出来る仕事を創出するだけでなく、本人の得手不得手を考えて仕事のやり方を工夫する。さらにその職場に対して決定権を持つ人に働きかけて実現を図る。「ジョブコーチが居るから大丈夫、ではだめ。従業員と話をしながら接し方、やり方、考え方を共有し、従業員を障害のある人に教える立場にしていく。そのコミュニケーション能力が非常に大切だ」。

 講演の後、リサイクルのために非鉄金属などの選別作業をしている株式会社アクス(宇治田原町)の山田美智子工場長が実践報告をした。創業25年の同社は30人の従業員中23人に障害がある。

 「彼らが戦力になってくれないと会社はやっていけません。最初は何の知識もなく、必要に迫られて必死で取り組んできたのです」。

 どうしたらいいか悩んだが、母親ら家族と裸になって話し合った。「互いに泣きながら話したこともある」。その人が生きていくうえでつらいことは? 仕事をするうえでやりづらいことは? そんな見方をしているうちに、一人一人違うそれぞれの障害というものが理解できてきた。

 理解できてくると、そのマイナス面をきっちりととらえる一方で、純粋さ、まじめさ、頑張る気持ちなどプラス面がいっぱい見えてきた。「障害者雇用ってええなあ」と思えるようになった。

 仕事を教えるポイントは「根比べ」。体を通した実感を大事に、行きつ戻りつ少しずつ積みあげていく。その人が実現できる目標値を掲げ、実現したら賞を出してやる気を育てた。給料は手渡しにこだわり、働いて給料をもらう実感を大事にしている。

 最後に小川さんが、「本気で就労支援する人を増やさなくてはならない。本気で一般就労を支援するということは、障害の特性に向き合うだけでなく、社会に向き合って必死でやりとりしながら実現をめざしていく、そのような専門性を身につけることが今必要」と強調した。