ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  自殺予防と遺族の支援
写真
命を支え合う社会をどう築いていくかを話し合った公開シンポジウム


何が必要か 考え対策を
多くの人が生きるすべ模索



 自殺予防と自死遺族支援のための公開シンポジウムが、このほど京都市南区の龍谷大アバンティ響都ホールで開かれた。年間3万人を超す自殺者がいる日本社会のあり方を変えていくため、私たちに何ができるか意見交換した。

 府、京都市と自死遺族サポートチーム「こころのカフェきょうと」の主催。基調講演ではNPO法人「ライフリンク」代表の清水康之さんが、NHKディレクターとしての取材をきっかけに、自殺を思いとどまってもらうための「つなぎ役」になろうと、退職してNPO法人を立ち上げた自らの歩みを語った。その後、広い道路を20分にわたり埋め尽くす東京マラソンのランナーの映像で、年間約3万2000人近くという自殺者の数を視覚的に訴えた。

写真
基調講演するライフリンク代表の清水康之さん
 さらにライフリンクが行った調査をもとに、自殺の要因は過労、事業不振、職場環境の変化といった社会・経済的なものから身体疾患、失業など生活や暮らしにかかわるものに転化し、さらに家庭不和やうつ病など個々人の心身へと悪化していくと指摘。45%の人が亡くなる1カ月以内に専門機関に相談していたことから、多くの人は生きるすべを模索しており、適切な対応があれば自殺せずにすんだはず、とした。

 清水さんは対策として、行政の立場で「何ができるか」を考えるのではなく当事者や現場が「何を必要としているか」を立案の原点に据えるべきと訴えた。具体的には、失業が契機となって多重債務やうつ病に追い込まれるケースを例に、▽ハローワークで生活や法律の相談もできるようにならないか▽できれば保健師や精神科医も来てもらえないか―といったワンストップサービスの考え方を提示した。

 シンポジウムでは埼玉精神神経センターの精神科医の藤本佳史さんが▽うつ病などによる心理療法に保険が利かず経済的負担が大きい▽精神科のベッド数が足りず患者を受け入れられないため外来の診療さえ断らざるをえない―と指摘。自殺予防という点から大きな問題と述べた。

 京都司法書士会の山口基樹さんは死亡に伴うさまざまな手続きを遺族自身にしてもらうことで、だんだん元気を取り戻していくように見えたことから「すべて代行するより、寄り添う形の支援が効果的では」と問題提起した。

 「こころのカフェきょうと」代表の石倉紘子さんは遺族による「分かち合いの会」の活動について報告。「つらい体験を話さないでいると沈んでしまう。外に出すことで生きていく力になる」と、遺族の集まりの場を広報する大切さを語った。

 京都市こころの健康増進センター相談援助係長の前田えり子さんは、相談内容には心の問題だけでなく、生活支援や就労など多岐にわたることから「関係機関にきちんとつないでいくことが大切だと思っている」と述べた。

 夫を失ったという女性から発表があり「『落ち着いた?』『元気になったじゃない』『あなたなら大丈夫』などと言われるのはとても辛い。一番望むことは見守ってもらうこと。家族や知人ら多くの人に支えてもらって今の私がある」と体験を語った。