ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  精神障害者を地域で支える
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精神障害者を地域で支えていく取り組みについて話し合ったシンポジウム(17日、ハートピア京都)


当事者と周囲 信頼が大切
昼のケア万全なら夜に問題起きない



 シンポジウム「精神障害者を地域で支える〜医・職・住の支援とは」が17日、京都市中京区のハートピア京都で開催された。入院医療中心で、長期隔離による人権侵害が問題になってきた精神障害者にとって、地域や在宅での生活を実現するための課題は何か、そのためにどのような取り組みが必要か―などを探った。

 京都精神保健福祉協会(林拓二会長)の主催する「こころの健康づくり大会・京都2010」の一環として、京都市中部精神障害者地域生活支援センター施設長の藤井弘さんを座長に開かれ4人のシンポジストがそれぞれの取り組みを語った。

 たかぎクリニック院長の高木俊介さんは、「訪問による支援〜ACT(Assertive Community Treatment=包括型地域生活支援プログラム)の試みから」と題して発言。日本社会が精神障害者を病院に閉じ込めて、日常生活の場にいない環境を作り上げてきたツケとして▽精神が病んでもどこにも相談できない▽認知症の初期の人に幻覚や妄想が起きてもどう扱っていいか分からないのでいきなり精神病院に入院させてしまう―という問題点を指摘した。

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シンポジウムの座長を務めた藤井弘施設長
 その後、医療と福祉が一緒になったチームで、訪問によって環境や家族、地域の様子を把握し24時間365日体制でケアを行うというACTの方法を説明。医療スタッフが当事者とじっくり付き合っていける▽昼のケアをしっかりやれば夜や休日に問題が起きることはなく医者はほとんど必要ない▽費用は人件費が中心で病院に収容することを思えば格段に安い―とした。

 大阪府保健医療室地域保健感染症課精神保健グループ主査の今井千代美さんは、今春まで携わっていた吹田保健所での退院促進事業について報告した。入院者の7割が「退院したい」と回答した2006年9月のアンケート結果を受け、08年度に地域で暮らす当事者と月1回テーマを決めてお菓子を食べながら懇談する「よつば会」を開始。回を重ねるにつれて、黙って聞くだけだった入院者がテーマに沿って話をするようになった。また退院に不安を持つ人が支援者と一緒に外出する「お試し退促」も発案。外出の機会が増えると身だしなみに気を付けるようになるなど、良い変化が見られたという。

 宇治市の栄仁会「けあほうむぴあ」所長の物江克男さんは、08年10月から2年間の試行期間に、入院・入所者20人がアパート生活に移行したことを報告。物江さんは20人の多くがヘルパーや病院のデイケアを利用し、携帯電話を備えていることを紹介し、「生活の必要な部分をサポートする」という考え方を基に、安心感と日常生活を保障するのが大切、と述べた。また、ぴあスタッフ、介護事業所のケアマネジャー、ヘルパー、アパートの大家さんら当事者を取り巻く人々との信頼関係の必要性を強調した。

 舞鶴市のワークショップほのぼの屋施設長の西澤心さんは02年に、市民の誰もが利用できる障害者施設を作ろうとレストラン「ほのぼの屋」を開店。人気を集めそれなりの給料を払えるようになった。その中で、スタッフの一人が「初めて仕事に誇りが持てた」と語ったことを紹介し、援助者の役割は彼らが主体的に働ける環境を作るための「土を耕す」ことと締めくくった。