ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  自閉症、幼少期の支援

興味や関心 動機付けに
視覚的・具体的に伝える工夫を


 自閉症に関する連続セミナーの第1回、「幼児期・児童期の支援」が21日、京都市中京区のハートピア京都で開かれた。京都府自閉症協会とNPO法人あすくの主催。横浜市東部地域療育センターの臨床心理士、安倍陽子さんが「自閉症スペクトラム(ASD)の理解から支援へ」と題して講演した。

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ASDの子への適切な支援について講演する横浜市東部地域療育センターの安倍陽子さん
 ASDは、広汎(はん)性発達障害、自閉症、アスペルガー症候群を一つの連続体としてとらえた用語。ASDの子は視覚や感覚を通して得た外部情報の処理方法が人と異なっているのが特徴。このため親の叱責(しっせき)や注意を理解できないことが多く、不安やストレスを感じやすい。ただ育て方や教育次第で長所にもできるという。得意な学習スタイルは▽目で見て行うこと▽具体的で明確なこと▽経験したこと▽一つのことを細部まで集中して行うこと―など。逆に▽耳で聞いて行うこと▽抽象的であいまいなこと▽応用や臨機応変さ▽同時に複数の情報処理―などは苦手とされる。

 そのため安倍さんは、教育と生活支援に▽視覚的に伝える▽具体的に伝える▽興味や関心を生かす―といった方法を提言。たとえば、幼稚園でテレビ画面の前に立ちふさがる、といった不適切な行動をやめさせるには、手本となる絵を見せるのが効果的、と述べた。

 安倍さんは事例の中で、狭い家のストレスが原因で母や兄弟に暴力を振るっていた小学5年生のケースを紹介。スペースを工夫して、大好きな沖縄民謡を聴けるキャンピングチェアや一人で寝られるベッドとカーテンを用意したことで、落ち着き、リラックスできる効果があったという。安倍さんは「自閉症の子は、こういう状態は嫌だと口に出して言えないので、周りが配慮することが必要」とした。

 その他に興味や関心を生かすことの例としては、起きてから幼稚園に行くまでの生活習慣づくりのため、一つの動作が完了するとその子が大好きな、は虫類の動物の絵が一つずつ出てくるという壁掛けを母親が作ったことや、トイレトレーニングのため、うまくできると用意した紙にウルトラマンシールを貼っていったこと。鉄道の好きな子には、教室の窓から出入りすることをやめさせるため駅名図を用意し、しなかった日には一つずつ進んでいく、といったことなどを挙げた。

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「先生と勉強している場面はどれ」。ASDの子どもが言葉を理解しているかどうか、絵カードを使って確かめている
 安倍さんは、一つのことに熱中するASDの子の特徴を、良い習慣づくりの動機づけとして生かしていくことの大切さを強調。それぞれの特性に合った支援をしていけば、きちんと発達する、と述べた。

 またASDの双子の子をもつ母親が、10年余りの子育てについて報告。子どもたちは、気に入ったものがあると周囲の状況を考えずにそばに行ったり、危険を認識せずに2階ベランダから隣家に行ったりしたことがあった。母親は▽発達の遅れを補うため気持ちや要求を伝えるカードでコミュニケーションを図った▽要求にすぐ応えられない時は「待って」と書いたカードを渡すことで気持ちを落ち着かせた▽危険がないようベランダや高い窓枠のリフォームを行った―といった苦心や工夫を語った。