ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  生きる力を育むために

全員参加型の社会へ転換を
頑張れる条件づくり、今以上に


 第19回日本社会福祉士会全国大会・社会福祉士学会が6月4、5の両日、京都市左京区のみやこめっせで開催された。反貧困ネットワーク事務局長で内閣府参与の湯浅誠さんが「生きる力を育むために」と題して基調講演。頑張れる条件が平等でない今の社会の問題点を批判し、全員参加型への転換を訴えた。

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「貧困や自殺といった問題を抱えているところへ震災が起きた。日本社会はますます劣化する恐れがある」と警鐘を鳴らす湯浅さん
 冒頭、湯浅さんは未婚率について、三十代前半の男性は2010年の国勢調査で半数を超えることが確実になったと指摘。女性が多くの場合、出産を機に退職して無収入になり、その後はパートなど低収入の仕事しか得られないため相手に一定の収入を求めねばならないのに対し、男性は非正規の増加などでそれだけの収入を得られなくなったのが原因と分析した。

 また「貧困な人は努力が足りない」という自己責任論に言及。相談を受けた事例をもとに「虐待や低所得で学校もまともに行かないまま労働市場に出て『使えないやつだ』と小突かれるようにはじかれ続け、30年、40年、50年の人生を送ってきた人が『さあ夢を持ちましょう』と言われて『よし頑張ろう』とすぐ思えるか、それは無理な注文だと思う」と語り、頑張るための条件が整えられていない中で、自己責任論を唱えても、貧困などの問題は現実的には何も解決しないと批判した。

 湯浅さんは問題が顕在化した背景として、高度経済成長期以来、人々の生活を守ってきた国、企業、男性正社員という三つの傘が1990年代以降、急速にしぼんだため、と分析。国が企業を支え、企業は男性正社員に家族全員の生活給を払うという特殊な構造のもと、正社員は長時間労働を強いられ、妻のパートや子どもの学生アルバイトは「補助労働」とみなされ低賃金が常態化していた。当初から母子家庭や日雇い労働者のように傘の外にいる人の問題はあったが、長期不況を受けて非正規労働者への代替が急速に進み、無縁社会、貧困、年間3万人以上の自殺者、といった問題が出てきた。これらが解決されないところに東日本大震災が発生。地震、津波、原発事故、風評被害、被ばく地域住民への差別という5重苦で、日本社会はますます劣化する恐れがある、と警鐘を鳴らした。

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京都で開かれた日本社会福祉士会全国大会。開会式の冒頭、東日本大震災の犠牲者へ黙とうを行った(6月4日・みやこめっせ)
 湯浅さんは将来のあるべき方向として、仕事、家庭に福祉も取り入れた「ワーク・ライフ・ウェルフェアバランス」の考え方を提唱。女性労働の問題点を例に挙げ、保育や介護の機能を充実させれば出産後も仕事を続けやすい環境が整うとして、女性も男性も、障害のある人もない人も全員が社会参加できる方向に組み替えなければ、生産年齢人口が激減していく日本は立ち行かなくなると語った。

 また現在行っていることとして▽一人の生活困窮者に対し、一人の専門職が継続して就労や生活などの必要なサービスを組み合わせて自立を支えるパーソナル・サポート・サービス▽地域支援を行っている人が個人情報の共有を含めて実効的に連携する仕組みづくり―の2点を紹介。一人一人が夢を持って頑張れる条件づくりを今以上にやっていく必要がある、と結んだ。