ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  依存症からの立ち直り

断酒の日々 前向きに持続
心の最低部分、仲間と共有しながら


 薬物、ギャンブル、アルコール、買い物などの依存症に悩む人が体験を語り合って解決に役立てる「第5回アディクションフォーラムin滋賀」(京都新聞社会福祉事業団後援)が16日、近江八幡市の「G―NETしが」で開かれた。生きづらさを抱えた当事者らを前に「人生なんでもあり〜アルコール依存症と共に生きる」と題して、元当事者の月乃光司さん(47)が講演した。

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「絶叫朗読」も交えて苦しかった日々のことを語る月乃さん
 月乃さんは新潟市でビルメンテナンス会社に勤めるかたわら小説や詩を書いている。24歳でアルコール依存症になり精神科病棟に3回入院。27歳から断酒生活を続けている。著書に自伝的小説「アルコール依存症からの脱出・窓の外は青」(新潟日報事業社)がある。

 くちびるが厚くからかわれたことから高校時代に対人恐怖症と醜形恐怖症で不登校になり、通算4年間の引きこもり生活を過ごした月乃さんは、「酒を飲むと『自分が醜い』という感情が消えて、飲み友達ができ女性と話をする楽しみも覚え、さながら『魔法の薬』のようだった」と飲酒に浸った動機を説明。その後、朝から晩まで飲みっぱなしの生活になり、酔って記憶をなくしては自動販売機を割るなどの暴行をはたらくようになったという。

 病院の紹介で訪れたアルコール依存症の自助グループでは、初対面なのに「きょう来た仲間」と仲間呼ばわりされるのに抵抗を覚えたが、そのうち「心の最低の部分を共通認識として持てるのがこの場である」と気づき、「仲間」という言葉が心地よく響くようになった。

 月乃さんは自作の詩やエッセイを感情こめて読む「絶叫朗読」も披露。当時の自分を「引きこもり、鉄格子、点滴、憎しみ、精神病院の外来の待ち時間、白い目、世間体、父と母の涙、死んでいったアルコール依存症者、リストカットの傷跡、未来への絶望、そんな言葉だけが僕の人生に満ちていた」と表現した。

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「当事者の方」「関係者の方」講演の冒頭で月乃さんは聴衆に問いかけた(近江八幡市・G―NETしが)
 さらに「百人いれば百通りの人生がある。それはいずれも正しい人生だ。そのことに気付くために、苦しい10代、20代は必要だった」と振り返った。また他人に対しても「この人は『変なやつ』ではなく、正しい人生を歩んでいるのだ、と思うように心がけている」と語った。

 ただ、乱用をやめたら物事がすべて解決するわけではなく、現実の問題が押し寄せてくるといい、月乃さんの場合も酒と処方薬の影響のせいか物忘れが激しく、会社では自分の作業を同僚に再確認してもらっている。あからさまに侮蔑の表情をされることもあるがプライドを持たずに、そんな「ダメ社員」としての自分を受け入れており、夜寝る前に「『きょう酒も薬も飲まなかったから大成功だ』と自分に言い聞かせている」と述べた。

 月乃さんは朗読会で共感のメールをくれた女性と昨年4月に結婚したことも明かし「続けていればスリップしない。細く長く続けている人は仕事も金もパートナーもついてくる。長い時間かかったが、僕の場合もそうだった」と結んだ。