ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
シンポ傍聴席  精神障害者の家族支援

訪問診療広げ診療所入院も
母の統合失調症、公表し元気に


 京都精神保健福祉推進家族会連合会の講演会「いま求められる家族支援」が9月23日、京都市中京区のコープイン京都で開かれ、静岡県の児童精神科医、夏苅郁子さんが「母が統合失調症であると公表して」と題して話した。

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「母の供養にと思い、服を仕立て直して着てきました」と講演で語る夏苅郁子さん
 夏苅さんは著書「心病む母が遺(のこ)してくれたもの」(日本評論社)で10歳の時、母親が統合失調症を発病し、以後、入退院を繰り返したことを公表。娘としての悩みや医科大学在学中に体験した精神医療の実態に対する心の葛藤、一人暮らしの母との10年ぶりの対面や晩年の母との関わりなどを記している。講演では当事者家族と専門医の二つの立場から、あるべき医療について語った。

 夏苅さんはまず統合失調症という病気について▽言葉に過敏で拒絶的になる▽気分の変化が激しく他者が寄りつきがたい─などさまざまな症状がある一種の症候群で、悪い状態が長期間続くと脳に変化を起こしてしまうと説明。初期には▽刺激への敏感さ▽集中力低下▽疲れやすさ▽不眠▽不機嫌・暴力─などの症状が表れ、思春期やうつ病とまぎらわしいが、注意深く観察し早期発見と早期治療が必要とした。

 その上で、悩んでいる家族にとって当事者の症状を良くすることが一番の支援になると強調。具体策として医師や看護師だけではない多職種医療チームを編成しての訪問診療の充実を提案。緊急時に迅速な対応ができ、診察室では分からない当事者の状態がつかめると理由を述べた。

 また身近な場所で普段と近い形で入院できる有床診療所を推奨。重度の精神病患者の入院が診療所では許可されていない現状を「『精神疾患は危険である』という発想が根付いている」と批判した。

 初期には、当事者は自分が病気であると自覚できないことが多いので、受診させるのに家族は大変な思いをする。時にはさるぐつわをして無理やり入院させたり、体力ではかなわない息子を前に老母が途方に暮れていたりすることもある。夏苅さんは「統合失調症は思考障害を起こすこともある病気なのに、病院に連れて行けないと治療できないというのでは堂々巡りになってしまう」として▽公立病院での収容入院の制度化▽非告知投薬(受診しようとしない患者に診察しないで薬を出すこと)─を厳格な条件付きで認めてくれるよう訴えた。  さらに、統合失調症の認知度を上げることと家族が当事者との関わり方を学ぶ場の必要性にも言及した。

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多くの聴衆が来場した講演会「いま求められる家族支援」(9月23日、京都市中京区のコープイン京都)
 最後に、自分自身の体験として、母親の病気を公表して得たものは▽精神科医としての治療姿勢を根底から覆された▽自分の職業の意味が分かった▽何よりとても元気になった─と述べ、「知ってもらわないと支援は広がらない。私は公表して失った物はなかった」と結んだ。

 佐藤純・京都ノートルダム女子大准教授は「いま求められる家族支援・英国に学ぶ」と題して講演。視察したバーミンガム地域(人口約130万人)では35の精神医療チームが、当事者を日に3、4回訪問することもあり、また開業医がうつ病の治療をするので、必ずしも入院が必要ではないことなどを報告した。