ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
自然との共生  障害者カヌーを楽しむ

【1】未知の分野への挑戦

爽快感抜群「沈」も醍醐味(2019/02/18)


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静水で気持ちよくカヤックをスイスイと操る江村さん(兵庫県豊岡市・県立円山川公苑)=写真は本人提供

 「爽快感、抜群。カヌー最高」

 私が初めてカヌーを体験した時の気持ちです。艇に乗ってみると、普段見ている川の様子と全く違い、水上から眺める景色は格別に美しく、ほとんど人工物は目に入らず周りの木々や草だけで自然と一体になり、頬を横切る風は涼しく、爽やかさは格別なものでした。自然は障害の有無にかかわらず、誰にも同じように接してくれることを改めて感じ、カヌーにはまっていきました。

 私は3歳の時に小児まひ(ポリオ)にかかり下肢障害の身体障害者となり、今は車いすの利用が中心になっています。私と障害者カヌーとの出会いは、2000年の夏でした。水が苦手で泳いでも少ししか進むことができず、浮かぶことしかできない私がカヌーを始めたのは、友人に誘われて体験したのがきっかけでした。

 障害者カヌーの活動は知っていましたが、どこまで自分でできるのか、艇を運んだりするのは無理だし、でこぼこした河原を移動するのも不安でしたが、今までと違う何かをしたいという思いで参加しました。

 カヌーを初体験した夏から秋までに奈良の吉野川や滋賀の琵琶湖で行われているイベントにも積極的に参加しました。そして、冬の間もカヌーのことが気になり暖かくなるのを待ち遠しく思っていました。

 翌年の春先に、高島市の海津大崎へ花見に行くという仲間に誘われた時のことです。まだ数回の体験しかしていない初心者の私は、ひっくり返ったらどうしようかとドキドキしていました。案の定、春の強風にバランスを崩し、初めてひっくり返りました(カヌーでは「沈(ちん)した」と言います)。「沈」して、慌てもがいている私を仲間が助けてくれ、なんとか岸までたどり着くことができました。初めての「沈」は、とても寒く身体がブルブルと震えたことは今も記憶にあります。しかし、その時の寒さより体験してきたカヌーの醍醐味を思うとやめようとは全く思いませんでした。

 その時の艇は借り物でしたが、どちらかというと形から入ってしまう私は、思い切って、艇、パドル、ライフジャケット、ヘルメットなど一式を買う決意をしました。自分の艇なら「沈」することも少ないだろうと思っていましたが…。その後も何度も「沈」を繰り返しましたが、挑戦することでだんだんと艇の操作もできるようになってきました。

 ところで、「カヌー」はカヤックを含めた「パドルを使ってこぐ小舟」のことで、種類は「カナディアンカヌー」と「カヤック」に分かれます。両者の主な違いは、パドルの先の水をかく部分が片方だけのものが「カヌー」、両方にあるものが「カヤック」になります。私が買ったものはカヤックになります。

 カヤックを買ってからは、休みの日には毎週のように友人と一緒に由良川(京都府京丹波町)や4時間余りをかけて吉野川(奈良県五條市)へ出向きました。

 カヌーを始めて20年近く、今は、毎年京都で開催している「パラマウント・チャレンジ・カヌーin京都」をベースに各地で開催されるイベントに参加をしています(その話は改めて紹介します)。



実行委員会の名称「パラマウント・チャレンジ・カヌー」のパラマウントは、ラテン語で「山頂にある(もの)」ということから、「最高の」という意味で、「障がいのある人たちがカヌーを通して、最高の自己実現を目指す」という願いを込めてつけられ、障がいのあるなしに関わらず、より多くの人たちがカヌーを楽しみ、新しい人と人との出会いの場が生まれ、障がいに対する理解や、障がいのある人の社会参加について考える場になればという願いを込めて命名されました。

写真 えむら・ひろゆき
1952年生まれ、京都市出身。
京都府立嵯峨野高卒。3歳の時に小児まひにかかり身体障害者(下肢機能障害)になる。京都市中部障害者地域生活支援センターらくなん嘱託。パラマウント・チャレンジ・カヌー実行委員長。66歳。