ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる  京都新聞「愛の奨学金」

温かい気持ち忘れず
「いつか人の役に…」

草の根福祉広げ、50回目の贈呈

 
 来年3月、設立50年を迎える京都新聞社会福祉事業団。そのスタート時から続いているメーン事業に「京都新聞 愛の奨学金」制度がある。幅広い市民からの寄付を原資に、学校生活を送る上で経済的に困難な若い人たちに毎年、援助を行ってきた。50回目になった今年の贈呈式では、京滋に住む154人の若者に奨学金が手渡され、若者たちは「寄付された方の温かい気持ちを忘れず、夢に向かって努力する」と決意を新たにした。

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50回目を迎えた愛の奨学金の贈呈式。経済的に恵まれない若者を支えてきた意義は大きい(京都市中京区・京都新聞社)
 事業団が創設された1965年は東京オリンピックが開催された翌年、日本は高度経済成長を突き進んでいた。高校や大学に進学する若者たちも増え始めたころで、義務教育修了後も学ぶ若者への支援が求められていた。愛の奨学金制度の原資は、スタート時も今も「誕生日おめでとうコーナー」への寄付金や奨学金事業協賛寄付金が中心。このコーナーは、年齢に100円を乗じた金額を寄託するシステムで、だれもが参加でき、その点では「草の根福祉制度」といえる。

 今年度の奨学金には大学生や専門学校生、高校生計288人の応募があり、大学教授ら4人が家庭事情や学業成績などをもとに選考した。その結果、選ばれたのが、大学・専門学校生56人、高校生98人の計154人(昨年128人)だった。近年は母子家庭の子女の申請が目立ち、今年は全申請者の65%がひとり親家庭だった。事業団の高岡俊裕チーフプロデューサーは「原資が限られているなかで、全員に、というわけにはいかないが、できるだけ多くの人が受け取れるように配慮している」という。

 贈呈式は7月19日に京都市中京区の京都新聞社で行われ、直野信之常務理事・事務局長が「多くの寄付者の善意でこの奨学金は成り立っている。年金の一部を毎年寄付してくださる方もいる。皆さんも、社会人になって、余裕ができたら、この事業への応援をしてください」とあいさつし、一人ずつに奨学金を手渡した。

 京都市内の高校2年の男子生徒は「母子家庭で弟とともにいただくことになり、本当に助かります。支援を受けた分はいつかお返しし、教師になって人の役に立ちたい」と希望を膨らませ、山科区の高校2年の女子生徒は「昨年に続いて、お世話になる。通学費やクラブ活動費などに生かしたい」という。京都府内の立命館大3年の男子学生は「今年で4回目の奨学金になる。授業料などに生かし、しっかり勉強したい」と話した。高校1年の娘とともに会場を訪れた京都市内の父親(51)は「病気になって、会社をリストラされた。なかなか仕事が見つからず、娘には迷惑をかけているが、必要な資格を取らしてあげたい」と奨学金に感謝していた。

コンセプトさらに明確に


 7年前から選考委員を務める小山隆同志社大社会学部教授の話 草の根の福祉を広げる観点から、この奨学金制度の果たしてきた役割は大きい。ただ、50年も続いてきて形骸化していないか点検していく必要がある。どんな若者を支援していくのか、奨学金を出すコンセプトをもっと明確にすることも大切だし、お金を提供する賛同者と受け手の若者との触れ合いがさらに深まることも欠かせない。

京都新聞 愛の奨学金制度 スタート時の奨学金(月額)は高校生2千円、大学生3千円だったが、徐々に上がり、現在は高校生6千円と大学生1万2千円。1年分を一括贈呈され、返済は不要。今年度の奨学金総額は約2千万円。現在は▽一般の部▽交通遺児の部▽東日本大震災被災者の部─に分けて選考している。これまでの受給者の総数は約7千人。