ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる

京都新聞社会福祉事業団
50周年記念フォーラム

 

大人の心を助けたい

兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザー
島田妙子さん


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 私は3兄妹の末っ子で、小学1年の終わりから中学2年までの約6年間、父の暴力と継母からは食事を与えられないなどの虐待を受けて育った。2人の兄も同じだった。毎日、殴られるのは嫌だったけど、それ以上に父の人相がだんだん悪く変わっていくのを見るのがもっと辛かった。「お父ちゃんはいつか戻る。逮捕されてほしくない」。そう思って周りの大人に「虐待されている」とは絶対に言えなかった。中学1年でも体重は24`しかなく栄養失調で、だれがみてもおかしかったが、手を差し伸べてくれる大人はいなかった。

 中学2年になった春、産休明けの27歳の先生が担任になった。「マッハ先生」と呼んでいた。先生は出会うなり、「あんた、まだ大丈夫か」と、「まだ」を付けて尋ねてくれ、全てを分かっておられた。5月に入って父母を学校に呼び出し、私ら兄妹を前に「家で子どもたちに暴力を振るっているんでしょう。親子であっても、やったらあかんものはあかん。きのうまでのことはどうでもよい。今度やったら、警察に通報する」と言ってくれた。それでも私らのことが心配で、すぐに養護施設に入れてくれた。ここでは、普通に食事ができ、布団で寝られるのが何よりうれしく、「助かった」と思った。父は、私が中学3年の時、施設に電話をかけてきて、「妙子か。ほんまに悪かった」とだけ言って、一週間後に命を絶ちました。

 4年前に亡くなった一つ上の兄の死をきっかけに「この先、虐待をなくすためになんでもやっていこう」と思い、活動してきた。年間。120回、全国で講演もしているが、虐待されている子どもを助けるだけでなく、虐待している大人の心を助けたいと常に思っている。子どもはどんなことをされても父や母が大事。親を逮捕されたくない。親子が離縁しなくてよいように、おかしいと感じた周囲の人は早く通報してほしい。

しまだ・たえこ 1972年神戸市生まれ。虐待の体験をつづった「いい愛の笑顔を」を2011年7月出版。13年10月から6回、京都新聞に「虐待越えて」を連載。児童虐待防止機構理事長。2女1男の母親。大阪府島本町在住。