ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる

シンポ「障害のある人の就労支援」
夢や希望を尊重し 本気の思い育てたい
ネットワーク通し、心の声にふれる

 
 障害のある人の就労支援を考えるシンポジウムがこのほど、京都市中京区の京都新聞文化ホールで開かれ、基調講演と障害者就労に携わる5人によるパネル討論会が行われた。就労希望者を送り出す側と受け入れる事業所側のそれぞれの思い、業種を超えたネットワークの必要性などが語られ、約80人の参加者が熱心に聞き入った。


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障害者雇用に携わるそれぞれの立場から意見を出し合ったシンポジウム(京都市中京区・京都新聞文化ホール)
 「障害のある人の可能性をプロデュースする」と題した基調講演には、京田辺市で福祉施設の運営会社(EL―LISTON)を経営する林剛氏が語った。林社長は18年前に共同作業所を立ち上げ、現在は「共働space ふくろう工房」として障害者が一般企業などで継続して働けるように、入所者の持つ潜在能力を引き出しながら「人を育てる」事業を展開している。工房の主力の作業に手すきの紙作りがある。「手すきは失敗してもやり直すことができ、根気強く作業を続けるのに向いている」と語った上で、「それぞれの人の夢や希望を尊重し、本気で働きたいとの思いを育てたい。重度だから、自閉症だからと決めつけないで、本人も頑張れる道筋を提供したい」とまとめた。

 討論会には、障害者就労を支援するネットワーク「山城障がい者就労サポートチーム調整会議」(通称・はちどり)のメンバーとしても活躍している5人が参加した。はちどりには、医療や学校、行政、福祉施設の関係者のほか企業の経営者らも参加し、立場の違いを超えて意見を出し合い、障害者雇用の拡大を図っている。

 障害者をすでに雇用している経営者の立場で参加した「小都里(ことり)」社長の小泉浩氏は「はちどりに参加し、働きたいと思っている障害者の心の声を聴くことができ、企業家として何かお役に立ちたいと思った」と話し、「シオン」社長の久田和泰氏も「この組織を通して人間関係が深まり、電話一本でサポートしてもらっている。私自身も病気のこと、専門用語も少しずつ分かってきた」とネットワークの大切さを語った。

 京都市内の大学で食堂を運営する就労継続支援事業所「あむりた」施設長の白濱智美氏は「5周年を迎え、職員を一人ずつはちどりの会議などに参加させているが、日々の仕事のやり方がいい方向に変わってきた」と話した。また京都府立宇治支援学校進路指導部長の長濱香織氏は「はちどりのメンバーに学校に来てもらい、研修会を開いている。各教員の就職に対する見方が広がってきた」と話し、業種を超えたつながりの魅力を語った。

 一方、宇治おうばく病院地域連携室係長の大塚剛史氏は「京都中小企業家同友会にも入っているが、多くの経営者との触れ合いの中で得られることは多い。就労に前向きな入院患者を病院全体として盛り上げていくことができる」と現状を話した。

 障害者を雇用することで企業にどんな変化が生まれるのか。宇治市などでコンビニ店を展開する小泉氏は「精神疾患の女性らを雇っているが、社員で辞める人が減ったし、みんなが優しくなった。売り上げも伸びている。小さな会社だが、誇れる会社になった」と変化に驚く。また、木津川市などで生花店を営む久田氏は「私の方から誘ってアスペルガー症候群の男性に来てもらった。私も変わったし、会社も変わった。障害のある人と働くのがあたり前になってきた。地域の中に、この当たり前を広げていきたい」と締めくくった。