ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる

写真
伝統の醤油の味を守り、新しい商品作りにも励む利用者

福祉施設と地域の仕事

試行錯誤重ね 一般の会社と勝負
地域に根ざし、賃金アップを

 

 障害者が働く福祉施設ではさまざまな商品を開発し、利潤のアップを図っているが、地域とつながりの深い製品作りを通して社会に貢献している施設も多い。京滋にあるそんな施設を紹介する。

 「あんたのところでやってもらえないか」。16年前、綾部市にある「あやべ作業所」に地元の醤油(しょうゆ)会社の社長が訪れ、事業の譲渡を申し入れた。経営が厳しくなったためだが、昭和3年に創業し、廃業をするのは忍びず、苦渋の選択だった。作業所では、この提案を受け入れることにし、醤油造りに取り組むことにした。障害者4、5人と作業所主任の大槻昌喜さん(54)が会社の工場で一から製造工程を学んだ「伝統の味を守ることを一番に考えた」と大槻さん。2000年12月、待望の醤油販売にこぎつけた。今ではすだちぽんず、だし醤油など新製品も市場に投入。11年には作業所の一角に自前の工場も完成した。「醤油関係の売り上げは年間500万円ほど。販路を開拓し、さらに売り上げ増につなげたい」と意気込む。

写真
滋賀県内の6つの蔵の酒粕を使った生チーズケーキのギフト用。蔵によって味が違うのも人気
 年間5千万円の売り上げを誇るのは東近江市のあゆみ福祉会が運営する「工房しゅしゅ」。ここでは障害者や職員ら15人が滋賀県内の6つの酒蔵の酒粕(さけかす)を使った製品を作り、店頭やネっトなどで販売している。とくに人気なのが、クリームチーズに酒粕を練り込み仕上げる「湖のくに生チーズケーキ」。お父さんが喜ぶスイーツを作ろう、と苦心の末、12年8月に完成した。観光庁のお土産セレクト9に選ばれるなど数々の賞も受賞している逸品だ。昨年春には6千万円以上を投じた新工房も完成した。製品開発から携わる工房責任者の大野眞知子さん(64)は「独創性のある製品を開発し、一般の会社と同じ土俵で勝負したい。そうすることで、ここで働く人たちの賃金も上がる」と先を見据える。

写真
鮒ずしの飯を使った焼き菓子。ラベルが滋賀県立大生がデザインした


 滋賀県の特産、鮒ずしの飯(いい)を小麦粉の生地に練り込んだ焼き菓子を製造しているのは栗東市の「パレット・ミル」。この施設では「自立のための最低賃金の保障」を目指し、就労形態別に4事業所に分けて、70種類もの作業に取り組む。常務理事の中山みち代さん(68)は「他の施設のまねをした製品を作ったのでは売り上げは伸びない。捨てられることの多い鮒ずしの飯を利用し、滋賀県をPRできれば」といい、今は東京を中心に販売している。

 このほか、京都府宇治田原町の障害福祉サービスセンター「うじたわら」では地元の特産「鶴の子柿」を使った柿酢を生産し、「健康によく、おいしい」と好評だ。

 どの製品も試行錯誤を重ね、編み出されたものばかり。地域に根差した独自の商品づくりを通して、地域貢献と働く障害者の賃金アップを図ろうとの思いは共通している。