ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる

京都新聞「愛の奨学金」

意欲ある若者応援 市民の善意141人に
返済不要「いつか恩返したい」

 

 家計が厳しいなかでも、学業に励む京都、滋賀の若い人たちを支える京都新聞社会福祉事業団の「京都新聞愛の奨学金」の贈呈式がこのほど、京都市中京区の京都新聞社で行われた。52回目の今年は高校生88人、大学生53人の計141人が奨学金を受け取り、「返済の必要のない給付型の奨学金は本当にありがたく、感謝している」との声が多く聞かれた。

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半世紀以上続く京都新聞「愛の奨学金」の今年の贈呈式。夢を持って学ぶ若者を支えてきた(京都市中京区・京都新聞社)
 奨学金の主な原資は京都新聞朝刊に掲載の「誕生日おめでとうコーナー」に寄せられる市民からの寄付。奨学金(年額)は昨年から引き上げられ、大学生18万円、高校生9万円で、今年は324人から応募があった。母子家庭などのひとり親家庭からの申し込みが多かったという。選考委員4人が各家庭の経済状況、学業成績などをもとに選考し、昨年より18人多く選ばれた。

 式では同事業団の直野信之常務理事が「寄付される人はお金に余裕がある人ばかりでなく、生活を質素にしても、若い人たちの役に立つなら、と寄せていただいている人もいる。善意の背景にある人の気持ちを考えて有効に使ってほしい。そして、皆さんが社会に出られて余裕ができたら、この奨学金を応援する側に回ってほしい」と制度の持つ意義を説明し、一人ずつに奨学金を手渡した。

 立命館大4年の男子学生は「母子家庭で家計は厳しく、一昨年いただいた奨学金では必要な資格を取るのに活用した。おかげで金融関係に就職が決まり、感謝している。貸与型の奨学金が多い中、給付型の愛の奨学金はありがたい。いつか恩返しをしたい」と喜び、湖南市の高校1年の女子高生は「海外で働く夢をもっており、参考書の購入やクラブ活動費に生かしたい。夢を実現することで、寄付者に喜んでもらえるよう努力する」と決意を話す。大学2年の娘をもつ京都市下京区の母親(48)は「奨学金制度をいろいろと調べたが、貸与型だと卒業後の返済が厳しい。愛の奨学金の趣旨にも賛同できるし、給付型の奨学金がもっと増えてほしい」と希望していた。


貧困の連鎖断ち、学ぶ機会を

選考委員の一人、滋賀県スクールソーシャルワーカーの幸重忠孝さんの話

 18歳未満の子どもの貧困率は2012年の調査で16・3%、6人に1人の割合になっている。多いように思われるが、両親がいても、どちらかの親が病気がちであったりして、収入の少ない家庭は珍しくない。2013年に「子どもの貧困対策法」が制定されたが、具体的な政策はほとんど進んでいない。子どもは国の宝であり、どの子にも平等に学ぶ機会を与えねばならない。だが、現状は親の収入によって明白な学力の差が生まれており、これでは、貧困の連鎖は断ち切れない。

 そうした中、愛の奨学金制度が半世紀以上、続いてきた役割は大きい。とりわけ給付型の奨学金は受け取る子どもたちには安心できる。選考委員は今年で3年目だが、毎年、応募者の半数以上は贈呈対象にならず、本当に厳しい子どもに十分に目が行き届いているのか不安も感じる。贈呈の原資をもっと増やす仕組みを主催者には考えてほしいし、毎年の受給者と何らかの形でつながっていくシステムも必要に思える。

京都新聞「愛の奨学金」
同事業団が設立された1965年から始まり、これまでに約8500人が奨学金を受け取り、累計総額は5億3千万円に上る。今年の奨学金総額は、児童養護施設で暮らす高校生169人への激励金を含めて約2200万円。