ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる

シンポ「障害のある人の就労支援」

「お客さん」のニーズ意識 得意分野生かし戦力に
三方良し目指してつなぐ人を(18/03/12)



 障害のある人の就労支援を考えるシンポジウム(京都新聞社会福祉事業団主催)が先月17日、京都市中京区の京都新聞文化ホールで開かれた。作業所と企業をつなぐコーディネーターらの講演のほか、障害のある人を雇用する企業と就労者によるパネル討議があり、約100人が耳を傾けた。

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障害のある人の就労支援について討議する登壇者ら(京都市中京区・京都新聞文化ホール)
 「三方良しの福祉〜作業所・企業・行政をつなぐコーディネート」と題した基調講演では、広島県の料亭久里川の支配人で県就労振興センター副会長を務める森浩昭さんが、近年取り組んでいる作業所と企業のマッチングを紹介。作業所の自主製品が売れない理由を分析し、売れるための発想や仕組みづくりを提案した。

 森さんは、企業のものづくりが「お客さんを喜ばせたい」という目標に基づいていることに対し、作業所では「障害者を世の中に認めてもらいたい」という障害者理解が目標になっていると違いを説明。「作業所には『お客さん』という言葉がない」と指摘した。

 かまぼこ板を利用したJTバレ−ボ−ル部の選手の人形や,カメヤマロ−ソクの注文で作った祈りのキャンドルなど企業とタイアップした成功事例を紹介。マスコミを活用したり教育を巻き込んだりする戦略などにも触れつつ、「福祉の人に新しい製品を作れと言っても難しい。つなぐ人の育成が必要」と課題を挙げた。

 また、ペットのそっくり人形など予約が殺到する商品を例にあげ、「作業所は、個々のお客さんに合わせたニッチな商品が得意」と、心に食い込むものづくりを提案。「福祉を言いすぎず、お客さんがほしい製品を作り、結果的に福祉になればいい」と締めくくった。

 パネル討議では、障害者を雇用する企業の経営陣とともに、障害のある当事者が登壇。それぞれ思いを語った。

 京都市南区の家具と建具製造の山田木工所に勤務する発達障害のある男性は、これまでは、仕事を覚えるのに時間がかかり周りを怒らせて長続きしなかったといい、「失敗体験が積み重なって人とつながることを恐れていた」と打ち明けた。現在の心境については、「自分でもできることがあると気づけた。腕を上げて会社の利益に貢献したい」と力を込めた。

 男性を採用した理由について同社専務取締役の山田正志さんは、「真面目で素直で仕事にひたむき、苦手を克服しようとしている」と、人間的な素晴らしさを挙げた。また、「障害のある人について知ることが大事で、小さい頃から接していたなら、将来一緒に働こうという気持ちになるのでは」と、接点を持つことの意義を語った。

 産業機械の部品を作るJ・P・F(南区)代表取締役の田中丈治さんは、障害者雇用のメリットについて「厳しかった従業員が優しくなった」などと話し会社の雰囲気が変わったと強調。「企業は、働く人の能力を使用させてもらっている。健常者にも障害者にも得意不得意があり、企業は、それぞれの能力を生かして戦力にしていけばよい」と、企業側へメッセージを送った。

 シンポではこのほか、京都市立白河総合支援学校の山本陽子支援部長らが、本年度初めて中小企業家同友会と協同で職場開拓した取り組みについて紹介した。

(フリーライター 小坂綾子)