ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
ともに生きる
写真
自身の伴奏付きで会場に流麗な歌声を響かせる柱本さん。実際に「こころを聴く」体験をした驚きと感動を語り、ともに生きる時間の大切さを訴えた(京都市中京区・京都新聞文化ホール)

京都新聞社会福祉事業団
「ともに生きる」フォーラム(18/04/10)



 ひとり一人の命を尊び共に助け合って生きる社会の構築を考える京都新聞社会福祉事業団主催の「ともに生きる」フォーラムが3月25日、京都市中京区の京都新聞文化ホールで開かれた。今回は3人の専門家講師を招き、急速に増えてきた男性たちによる介護のあり方や、公的年金制度の維持と現状をめぐる問題点などを語ってもらった。会場には中高年の人たちを中心に約100人が詰めかけ、メモを取るなどして熱心に聞き入った。最後のミニコンサートを兼ねた講演では、住職で歌手の柱本めぐみさんが美しい歌声と演奏を披露して会場を魅了した。



変わる介護と家族
立命館大学産業社会学部教授 津止 正敏


 いま、在宅介護は「老々介護そのもの」という状況です。60歳以上同士の介護は7割を超え、75歳以上同士でも3割を超えています。

 50年前、介護者は9割が女性、とくに「嫁」に頼っていました。いま主たる介護者の3人に1人は男性です。私たちは男性介護者と支援者の全国ネットワークを発足させた2009年に、初めての体験記集「男性介護者100万人へのメッセージ」を刊行、予想を超える反響がありました。

 男性介護者の会や集まりは以前は数えるほどでしたが、今は私たちが知る限りでも全国150カ所に拡大しました。男性介護者の多くは苦しくとも助けを求めようとしないので孤立しがちです。介護現場で起きている虐待など不幸な事件は、介護者を孤立させないことが最大の予防策です。男性介護者の集まりを、全国にコンビニの数ほど作れたら、と思います。

 男性たちは介護だけでなく、生活すべてにつらいことが多い。高齢の妻が倒れると、ふだんコーヒー一杯いれない高齢の夫が介護と家事全般を担う。炊事、洗濯、買い物…と。こうした場合、介護者の置かれた状況を見極めながら支援しないと、悲劇が起こりかねない。介護が肯定される場を社会にも企業にもつくることが重要です。

 介護保険が始まり19年目になりますが、想定外の問題が次々に出てきました。男性・老老・認認・老障介護、さらには、通いながら・子育てしながら・働きながら、という「ながら介護」が一般化しています。働きながらの介護はもう介護者全体の半数以上、50歳代の男性介護者では9割を超えます。ながら介護を可能にするとともに、ながら介護の犠牲になる人が出ない環境を整えねばなりません。

 介護の負担感について私たちの調査では、つらくて大変なことはもちろんですが、それでも介護の希望や喜びを語る声も数多くありました。「毎日の介護で心身ともに疲れていても、妻の微笑を見るとき唯一慰められ救いのように思えてなりません」(87歳)。「週の大半はデイとショートですが、家では私がトイレの後始末をやってやると『お父さんが一番いい人だね』と何度も何度も言ってくれます。その言葉が私の励みとなっています』(77歳)

 平均寿命は男女共に80歳を越えましたが、健康寿命は70代前半。人生後半期の10年前後は健康ではない生活が待っています。介護を排除せず、介護のある暮らしや働き方を社会の標準にすべきです。「終わりよければすべてよし」にするには、人生後半の介護環境を、私たちがどう支えていくかにかかっています。

つどめ・まさとし
京都市社会福祉協議会地域福祉部長などを経て2001年から現職。09年「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を開設。著書に「男性介護者白書」ほか。