京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
|
●統合失調症を生きて
まだ社会的認知が十分進んでいない統合失調症の当事者である森実恵さんが 正しい知識で公正な報道を
精神障害に関する報道の仕方で以前から、疑問に思っていたことがあります。それは精神障害に関する報道が事件報道だけに偏り過ぎていることです。
身体障害者や体の病気の方が何か犯罪を犯しても、そのことが記事に記載されていることは少ないようです。逆に身体のハンディがありながら、こんなに頑張っているということを応援するような記事のほうが圧倒的に多いのはなぜなのでしょうか。 精神障害者の犯罪率は一般の人より低いにもかかわらず、事件報道だけに偏っているために突出して多いような錯覚を与えてしまいます。 そのため、逆に精神障害者が何か良いことをしても当人が障害のことを明かさない場合が多くなり、この悪の連鎖はますますエスカレートしていきます。 また、偉業を成し遂げて、初めて記事になる傾向があります。天才的なことをしたごく一部の人は脚光をあびますが、普通のことを一生懸命にやっている程度では記事になることは少ないのです。 作業所でおいしい弁当を作り、お年寄りに配達している、ボランティア活動を頑張っているというような記事の数が少なすぎます。 新聞など報道機関が特定の障害について、記事やニュースなどにする場合、その内容についても配慮すべきではないでしょうか。少なくとも肯定的な内容、中立的な内容、否定的な内容の比率を等分にしていただきたいと思います。報道機関は身体障害や体の病気の人、盲ろう者を応援するが、精神障害者に対しては、誤ったイメージを伝えることを長年続けてきたのです。 そのことによる弊害は大きすぎます。精神障害に対する事実とは大きくかけ離れた良くないイメージは報道により、人為的に作り出されたものなのです。ぜひ、今後の報道で是正していっていただきたいと願っています。 また、精神科の病気ではうつ病についての啓発活動だけに偏り過ぎているのはなぜなのでしょうか。「うつ病による自殺を防ぐ」記事やニュースはよく見かけます。しかし、実際には統合失調症の自殺率はうつ病よりも高いにもかかわらず、自殺の記事でこの病名を目にすることはありません。 報道の偏りのため、うつ病は自殺する病気、統合失調症は他者を傷つける病気という偏見が人為的に作りだされていきます。 取材者、編集者には精神障害に対する正しい知識を持っていただきたいと思います。報道機関は偏った事実を伝えてきた責任を自覚していただきたいと願っています。 報道の持つ社会的な影響力の大きさを思うと、精神障害者に対する差別や偏見を根こそぎ絶やすことができるのも、また報道の力をもってしかないと思うのです。 (森氏の連載は今回で終わり、10月から松永信也氏の「見えない世界を生きる」を掲載します) 森 実恵(もり みえ)氏 大阪府在住。2006年にリリー賞(精神障害者自立支援活動賞)、07年に糸賀一雄記念賞、09年に第35回部落開放文学賞。著書に「心を乗っとられて」(潮文社)「心の病をくぐりぬけて」(岩波ブックレット)「なんとかなるよ統合失調症」(解放出版社)。
▲TOP
|