ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

子どもに本の楽しさ伝え30年
工夫、練習重ね引き込む(2011/07/05)


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「おはなし会」で、手作りのパネルシアター「バナナのおやこ」を演じる「草津おはなし研究会」会員(草津市立図書館)

草津おはなし研究会



 草津市で32年近く、子どもたちに本の楽しさを伝え続けるボランティアグループが「草津おはなし研究会」(会員24人)だ。例会は毎週1回。草津市立図書館の会議室で活動報告などと共に実践研修を行う。次の「おはなし」公演に向けた「試演」が中心になる。物語を覚えて語って聞かせる素話(すばなし)、絵本、紙芝居と、それぞれが練習してきた成果を、皆でチェックするために実演する。

 「試演」が始まると場の空気が張り詰める。本の持ち方、語りの抑揚、物語の解釈まで厳しく批評し、意見が交わされる。「言い回しが違う」「立って演じた方がいい」「絵本を読むときは子どもの顔ばかり見ない。子どもが絵本に集中できなくなる」。キャリア30年も1年目も同じ土俵だ。今年度の研究会代表、納村由美子さ(65)は「よりよい表現を求めて皆が真剣で、はっきり意見を言う。本番より緊張するほど」と言う。



 研究会は、子どもの読書に関心を持つ草津市の母親らが、地元で読み聞かせ活動をしようと、1980年に結成した。発足メンバーの吉田高子さん(60)は「当初はまだ図書館がなくて公民館内の図書室が活動場所。物語を覚えるところから勉強しました。使う小道具は既製品。今は人形劇の人形まで会員が手作りし、ずいぶん視覚的になった」と変化を語る。

 10人ほどだった会員は倍以上になり、演じる機会もグンと増えた。草津市立の二つの図書館が毎月開く「おはなし会」のほか幼稚園や学校、地域行事など、依頼に応じて出向き、年間150回以上演じる。地域も市外にまで広がった。



 6月の雨の土曜日。草津市立図書館の「おはなし会」があった。演じ手は研究会会員6人と同館司書1人。観客は顔なじみの子どもや来合わせた親子らで、会場の視聴覚室はほぼいっぱいだ。

 毎回工夫を凝らすプログラムは、手遊びから始まる。赤ちゃんから小学生まで35人の好奇心が膨らんだところで、大きな絵をカレンダーのようにめくる「掛け図」や巻物スタイルで場面が変わる「巻き絵」と、趣向の違う「おはなし」が次々続く。雨にちなんだ話も取り入れた。歌も、子どもとの掛け合いもある。小一時間の間にクスクス笑いが大きな笑い声に変わり、最後は前に並べてあった本に子どもたちが駆け寄っていた。

 巻き絵を担当した中村初枝さん(66)は25年以上演じるベテラン。最近、心に残る出来事があったという。「小学3、4年生対象に演じた時、はじめは後ろの隅で斜に構えていた子が、おはなしが盛り上がってくるとサッと一番前に来て、座った。ずーっと下を向いていた子が、いつの間にか顔を上げている。おはなしの言葉が、子どもの頭の中で絵になって動きだすんでしょうね。

 研究会は東日本大震災の被災地支援に本のほか、宮城県の保育所に縫いぐるみを手作りして贈った。本と子どもをつなぐ活動の根は子どもの幸せを願う心。吉田さんは「子どもの笑顔を見ると、私まで楽しくなって元気が湧く」と言う。

 そんな研究会の活動は、今年度の「子どもの読書活動優秀実践団体文部科学大臣表彰」に選ばれた。


草津おはなし研究会
草津市草津町1547 草津市立図書館気付 TEL077 (565) 1818