ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

音楽で勇気と希望伝える
若者7人が演奏に挑戦(2011/11/08)


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壇上で元気に演奏する「くすのきBAND」のメンバー。演奏を支えるために保護者でつくるグループ「シャドウズ」が一緒だ(八幡市八幡、南山小)

くすのきBAND



 今月15日。京都府南部にある八幡市立南山小で開かれた「親子まつり」会場にバンド演奏が響いた。「明日があるさ」「星に願いを」…。ドラムにキーボードのメロディーが絡み、ウインドチャイムの音が流れ星のように尾を引く。

 演奏するのは、ダウン症や知的障害のある30〜33歳の若者7人でつくる「くすのきBAND」。3年前から毎年出演している。

 バンドの誕生は2000年秋。ダウン症の娘を持つ八幡市男山の亀田弘三さん(64)の思いがきっかけだった。「娘や仲間が成人するのを機に、彼らの頑張りを音楽演奏の形で残したい」。娘が通った地元小学校の特別支援学級「くすのき学級」の仲間に、ダウン症の幼児教室で一緒だった大阪の仲間が加わり、挑戦が始まった

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 指導は学生時代にロックバンドで活躍していた亀田さんが務める。周囲には、演奏用の譜面準備をする音楽家や記録撮影を担当する協力者、くすのき学級時代の先生など、心強い応援団がいる。

 メンバーはムードメーカーでお兄さん格の大祐さん、スマップの大ファンでキーボードが得意な文香さん、バンドに加わり引っ込み思案がほぐれてきた幸子さん、昭和歌謡からXJAPANまで音楽好きの洋輔さん、5歳からピアノを習い発表経験の多い啓介さん、緊張していても演奏を始めると弾むようにリズムをとる朋子さん、志願してドラムをたたく練習熱心な仁美さん。

 練習は八幡市立福祉センターで月1〜2回と、年1回の夏期合宿。楽器は個人やバンドで徐々にそろえた。練習が始まると、メンバーの横にはそれぞれ保護者が付き、指で音符を示したり、肩をたたいてリズムをとってサポートする。キーボードの鍵盤に色シールが張ってあるのは、音階を色に置き換えて曲を覚えるためだ。

 指導中の弘三さんは時に厳しい。「音が違う!」「ドラム遅いで!」。声が飛ぶと一瞬シュンとなるが、すぐに再開。次は間違わずに曲の終盤に向かう。保護者たちが息を詰めて見守る。最後の音が鳴り終わり、弘三さんの頬が緩んだ。緊張が一気に解け笑顔が広がる。

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 心に残る思い出がある。04年1月、八幡市生涯学習センターの催しで舞台に立った。約200人の来場者の前で、緊張を乗り越え20分ほど演奏した。大きな拍手がわき、花束が贈られた。「初めての本格的な発表の場でした。メンバーは涙ぐんでてね。達成感のような感情だったのかなぁ。その時、この先も教えていけると確信しました」と弘三さん。

 1年1曲を目標に新曲に挑み、レパートリーは10曲になった。皆が好きな「聖者の行進」はほぼ暗譜している。「誰かが間違うと全員手を止めてしまうことも。仲間の音を聴きとっているんですよ」

 弘三さんは一人一人の持ち味を生かし、曲により担当楽器を変えて構成する。数年前からはミキサーを取り入れて、パート演奏にスポットが当たる工夫をし、全体の音楽性も引き上げる。

 「くすのきBAND」は01年に八幡市社会福祉協議会にボランティア登録し、福祉の集いなどで演奏を続けている。今秋、京都府社会福祉大会でボランティア功労賞を受けた。7人の挑戦がひとつになった音楽は、聴く人にも希望と勇気を伝えている。


くすのきBAND
八幡市男山竹園5の110の403(亀田方) TEL 075(981)6421