ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

「お年寄りのため」基本に
1冊仕上げるのに数カ月から1年(2013/01/15)

拡大写本ボランティアサークル「ばら」


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パソコンに文章を打ち込んでいく「ばら」のメンバー。この日は珍しく1人欠席(精華町地域福祉センターかしのき苑)

 京都府精華町の町立図書館にある大活字本コーナー。その一角に並ぶ赤や黄のシンプルな背表紙が目を引く。町内の拡大写本ボランティアサークル「ばら」(松田真左子代表)が手作りした本で、現在39タイトル、87冊ある。

 「ばら」は、拡大写本に関する講座の受講者が2000年11月結成した。精華町南稲八妻のデイサービスセンターで使う大型百人一首や、時刻表、ごみ収集日程表の拡大版などを作っていたが、ほどなく活動を広げることに。細かな字が読みづらくなった高齢者や視覚障害がある人の読書支援をと、著作権の問題をクリアした書籍を大活字本にする活動を始めた。年間3作品程度を完成させ、03年から図書館に寄贈を続ける。

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 メンバーは平均年齢50代後半の主婦6人。毎週金曜日の午後1時〜4時、デイサービスセンターに隣接する精華町地域福祉センターかしのき苑の一室に顔をそろえる。

 「各自が選んだ本を持参して作業しています。自分のペースでパソコンに入力し、校正、製本までする200%手作り本です」と松田代表。今取り組むのは、桐野夏生「魂萌え!」や太宰治「人間失格」、赤川次郎のミステリーや曽野綾子の随筆もある。選択理由は「書評で見た」「夫が読んでいた」「他の図書館の大活字本によくある」「昔の作家も取り上げたい」…。各人の関心の幅を反映し、ジャンルは少しずつ広がっている。

 作業が始まると、ページを繰る音、キーボードを打つ音だけがひとしきり続く。合間におしゃべり。また、作業に集中するシンとした時間が流れる。

 文章の入力が終われば28ポイントに拡大し、行間に配慮しB5の紙にプリントアウト。巨大なホチキスで留めて製本する。1冊仕上げるのに数カ月から1年かかる。1冊の本は2〜3冊に分冊され、例えば全3巻の山岡荘八「坂本龍馬」は9冊になった。

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 現在の活動に落ち着くまでには、教科書の拡大写本に取り組むボランティアグループの見学をしたり、視覚障害がある人に話を聞いたりと、何ができるか模索した時期があった。が、10年ほど前の当時、子育て最中だったメンバーにはハードルが高かった。「短期に集中して作業が必要な教科書は、時間的に難しいし、見え方に個人差がある視覚障害の人に個別に合わせて製作するには、情報も技術も足りなかった」。身の丈に合った活動に焦点を絞ることにした。「お年寄りがもう一度読書を楽しめるよう」を活動の基本に据えた。

 穏やかに活動を続けるが、もう少し頑張りたい気持ちもある。「どのような本が求められているか、分かれば応えていきたいのですが。利用者像が見えてこず、反応が分からない」という。5年ほど前に図書館に簡単なアンケート用紙を置いてもらった時、時代小説の希望があったのが唯一の手がかり。

 手探り状態は変わらないが、寄贈した本を開くと小さな汚れが見つかることがある。誰かがきっと楽しんでくれている。

 「アンケートをまたできないかな」。皆で相談をし始めている。


拡大写本ボランティアサークル「ばら」
京都府精華町南稲八妻砂留22の1
精華町社会福祉協議会気付、TEL 0774(94)4573