ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

視覚障害の程度でガイド
触覚模型を独自に作る(2013/06/18)

日本庭園のユニバーサル鑑賞を楽しむ会


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国の名勝に指定されている明治期の名園で、ガイドをする「庭いこいこ」メンバーと参加者(京都市左京区南禅寺草川町、無鄰菴)

 5月中旬の日曜日。東山を借景にした京都の無鄰菴庭園は初夏の風と新緑に包まれ、観光客らでにぎわっていた。その中に視覚障害の人たちがボランティアガイドと一緒に庭を楽しむ姿があった。ガイドをするのは、京都を拠点に活動する「日本庭園のユニバーサル鑑賞を楽しむ会(略称・庭いこいこ)」メンバー。会代表・田村香さんの「日本庭園は見えない人も見える人も共に楽しめるのではないか」という思いで誕生した。

 奈良在住、大阪で勤める田村さんは、京都造形芸術大通信学部でランドスケープデザインを学んでいた2010年3月から、視覚障害者の庭園ガイドを始める。日本庭園は五感で味わえることの立証を卒論のテーマにし、実践と研究をリンクさせた。共感した同窓生や、視覚障害がある立場から協力しようという人が加わり、京都市福祉ボランティアセンターに登録。年数回の活動を続けている。

 ガイド担当は20代〜60代の社会人約30人。庭園に詳しい人が多く、核になるスタッフは13人。鑑賞会を開く時は会社員、自営業、公務員と、多彩な顔ぶれが東京、名古屋などからも集まる。これまで平安神宮や竜安寺、金地院など、主に京都の庭に出掛け、毎回5人程度の参加者を案内している。

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 5月の鑑賞会は7人のメンバーで3人の参加者を案内した。いつものように冒頭30分は説明の時間。無鄰菴の母屋座敷を借りて庭の歴史や造りを解説する。同庭園の触覚模型を独自に作成しており、大型のほかノート大の携帯用も準備し、参加者に個々に渡す。

 参加者とガイドはペアを組み、池や滝がある池泉回遊式庭園を歩く。鑑賞ポイントに差し掛かるとガイドがペア相手の手を取り、目前に広がる風景の輪郭をなぞるように空中に描きながら説明する。「全体の感じをつかんでもらおうと考えて始めました」と田村さん。

 触れていい植物や物は、傷つかないようにそっと触ってもらい、名前や特徴を伝える。弱視、中途失明など各人の見え方に合わせた説明は大切だ。大きさは「腕の長さくらい」、距離感は「○○歩先に」とヒューマンスケールも使う。庭師が本職の男性ガイド(35)は「新緑がふわっとおいしそう。コケはぺたっとしたのや背の高いのがあり…」と、説明に努めていた。

 一方、参加者たちは庭のたたずまいを繊細な感覚でとらえ、ボランティアに感想を語る。水音や響きの変化、顔に受ける日や風の加減、足裏に伝わる飛び石の感触…。設立時から参加する全盲の男性(27)は「庭は目で見るもので自分には遠い存在だと思っていたが、いろんな感覚で味わい楽しめるようになった」と言う。初めてガイドを担当した女性(27)は「こちらがガイドしてもらったよう」と。やり取りで補完し合い、庭園鑑賞の可能性を広げていく。

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 最後に大型模型に触れながら庭の味わいを再確認。安全第一、疲れないようを原則にした約3時間の鑑賞会は終了した。現在、同大学大学院博士課程で視覚障害者からみた日本庭園の空間について研究をする田村さんは、「こうした鑑賞が当たり前になり、より多くの人が庭を楽しめればいい」と、活動の先をみつめている。


日本庭園のユニバーサル鑑賞を楽しむ会
メールアドレスniwa1515@gmail.com