ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

障害ある人の余暇活動を支援
くつろいで自由に造形(2013/11/19)

工房麦


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フロアの中央に据えられた大きな机の前で粘土に向かう利用者とスタッフ(工房麦)

 地域で知的障害のある人の余暇活動を支援する「NPO法人いなほの会」が京都市北区にある。住宅地の真新しい一軒家。活動の中心「工房麦」のスペースでもある。利用者が粘土造形や絵を描いて過ごす。

 国際障害者年(1981年)に、京都や滋賀の障害者施設で生まれた作品を一堂に集めた展覧会が始まった。今も続く「土と色」展だ。一時、6年間休止が続く時期があった。「展覧会がなくても地域生活の中で余暇支援を続けたい」と、施設職員の平松誠さん(47)が別の施設職員の田辺敦史さん(44)に声を掛け、2004年にNPOを立ち上げた。工房は毎月第1、第3土曜日に開く。利用者は20ー60代の約10人。毎回来る人、数カ月に1度の人、半日だけの人と利用スタイルはさまざまだ。スタッフは5人。いずれも福祉施設の職員で、休みを調整しながら運営している。

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 取材したのは以前の工房が老朽化したため、移転し再開したばかりの10月。

 午前10時過ぎ。玄関を入ると粘土をバンバンたたく音が聞こえる。利用者の男性が土を重ねてたたき、また重ね、うちからあふれる喜びのように塊を積み上げている。別の男性は卵大の象を何頭も作る。鼻を振り上げた象の列が伸びていく。そばで平松さんが全力で土を練り、次の準備をしていた。

 象を作る人はムードメーカーのよう。新しい工房を祝う食事会が楽しかったことや作業所の話などおしゃべりは尽きない。平松さんが丁寧に応えている。

 積み上げオブジェの人は、移転で工房の休みが続いたせいか、いつもは2、3点のところを倍以上作り続け30`ほどの粘土を使い切った。「ごめんなさい。準備量が足りなかった。もう粘土は終わってもいいですか?」。平松さんが問うと、オブジェの作者は極上の笑顔を見せ、次は絵に没頭する。スタッフの岡部典明さん(38)は自分も器を作りつつ利用者を見守り、平松さんをサポート。「通所施設が休みの時など、地域に利用者さんの居場所があることは大切。ここに来ると、私も一緒にゆっくり過ごします」

 午後から2人の利用者が加わり、この日は午前午後合わせ、20〜30代の延べ6人が工房で過ごした。

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 昼時に出勤前の田辺さんが立ち寄った。「くつろいで好きな時に好きなものを作りましょうという空間です。誰も何も指示しない自由な所。そこからエネルギーのある造形も生まれると思う」と言う。30分粘土を触ったら、後はずっと昼寝していた人もいるという。

 代表を務める平松さんは「芸術性の追求を否定するものではないけれど、土に触れたり、筆やクレヨンで好きに描いて、その人が元気になったり楽しめる瞬間を大事にしたい」と、思いを語る。

 来年5月、2年ぶりに京都市美術館で第15回「土と色」展が開かれる。

 「一つの施設、場所でできることには限りがあります。展覧会を見てもらうことが、こうした居場所の増えるきっかけになればいい」。活動の広がりに期待がこもる。


工房麦
京都市北区衣笠開キ町80の78、携帯電話 090(1020)0585