ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

わが子突然死の悲しみ超え
心を打ち明け合う場に(2014/07/28)

SIDS家族の会


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今後の運営方法などを語り合うSIDS家族の会のビフレンダー(京都市下京区)

 鴨川の七条大橋の西詰めを少し上がった町家。二階からは鴨川の流れが見える。同町家は3年前に設立された「京都グリーフケア協会」(京都市下京区)の拠点で、家族の死などの悲しみに対してどうケアしていくかという講習会「グリーフケアスクール」などを行っている。6月中旬、ここでSIDS家族の会のミーティングが開かれていた。

 SIDSとは乳幼児突然死症候群のことで、亡くなった乳幼児の母親らに計り知れない悲しみと衝撃を与える。原因はよく分かっていないが、日本では毎年300人から400人が突然死しており、生後1カ月から4カ月ごろが最も多いとされる。

 この日の家族会のミーティングには約10人が参加した。それぞれが自己紹介し、自らの体験を語る。昨年秋に子どもを亡くした夫婦も初めて参加し、他の参加者の話に耳を傾ける一方、自らの体験を切々と語った。実はこうした遺族たちが自分の心を打ち明ける機会はまずない。それだけにこの家族会の活動は貴重だ。同会幹部は「話すことによって心のとげが取れていくのです。話すことができないなら書くことも効果があります」と語る。

 大きな悲しみにあった家族が自らの体験を語ったり、同様のことを体験した人たちの思いを聞くことによって、悲しい体験をしたのは自分一人ではないと思えることが救いへのきっかけになるという。これが心のケアにつながるのだ。たいていの場合、自らの体験をオープンにする際は泣きながらというケースが多いようだ。こうした現場ではビフレンダーが積極関与することが通例だ。ビフレンダーとは同様の体験をし、その悲しみを乗り越えただけでなく、落胆した人々をケアできるようになった人のことを指す。遺族の側にも共有体験があるという安ど感から、その存在は大きい。この日も参加者らはビフレンダーのアドバイスなどを受けながら自らの辛い体験を語り合った。

 SIDS家族の会が設立された頃は、日本にはまだ赤ちゃんの死亡などによって悲しみを抱く遺族に対してケアが必要だという認識はほとんどなかった。こうしたなかで欧米の事情などを学んだ遺族の有志が立ち上がった。現在、遺族会員は約400人、一般会員約30人、医学・医療分野のアドバイザー約50人で組織している。全国に支部的な組織があり、近畿地区代表ビフレンダーには鍼灸(しんきゅう)師の田上克男さん(60)が就いている。田上さん自身も子どもを亡くした体験を持っており、家族会の創立時からのメンバーだ。

 田上さんは地道な活動であるミーティングを一層充実させたいと願う一方、遺族のケアができるビフレンダーの養成を積極的に取り組みたいと考えている。また、乳幼児の死に直面する医師や看護師らの医療従事者、警察官、消防士らに対する啓発も欠かせないという。そうした現場で戸惑ったり、理解のない発言をする人も少なくない現状があるからだ。田上さんは「そういう分野でも理解と認識を広めていきたい」と意欲的だ。


NPO法人 SIDS家族の会
乳幼児らを突然に亡くした遺族らが中心になって組織している。1993年設立。本部を東京に置き各地方に支部がある。同会近畿地区の連絡先は豊中市東泉丘1の4の6の603。TEL 06(6369)0839