ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

まちの縁側「とねりこの家」

寄り添い、街で暮らす
世代を超えて集える場所(2016/11/14)


写真
親子で遊んだり、お年寄りの会話が弾むまちの縁側「とねりこの家」(京都市上京区一条通新町西入ル元真如堂町)

 京都御苑西側の住宅街。建物の入り口左側に、北欧神話で世界の中心という宇宙樹「トネリコ」の木が2本植えられている。「街の真ん中でみんなが生きがいを持って暮らせるように」との思いが込められている。

 まちの縁側「とねりこの家」は、乳幼児からお年寄りまで、障害のあるなしにかかわらず、誰でもが気軽にお茶を飲みながら憩い、交流できるサロンとして、代表の京都市上京区の水無瀬文子さん(73)が2004年に開設した。水無瀬さんは京都市の保健師をしていて、公共施設がお年寄り、子供など、世代別に設けられていることを残念に思っていた。世代を超えてみんなが集える場所をつくろうと、退職を機にスタートさせた。

 とねりこの家は、共同住宅の一角約85平方メートル。10人ほどの運営委員会を設け、保育士、看護師、調理師などの経験者約10人のスタッフで運営されている。さらに絵本の読み聞かせ、アロママッサージ、煎茶などのボランティアも加わる。運営委員で保育士の経験がある西京区の瀧本淳子さん(58)は「いつ来ても開いていることが大事です」と毎日、スタッフ2人が詰めている。一人暮らしのお年寄りや親子など、乳幼児から90代のお年寄りまで、1日に多い時で15ー20組の30人ほどが利用しているという。育児や家庭内の悩みなど相談を持ち掛けられることもしばしばあり、求めに応じてアドバイスはするが、「出しゃばらず、寄り添うように」と利用者に気を配っている。

 とねりこの家は、日曜・祝日を除き、開放されている。バスに乗り、10年以上、週2回ほど通っているという上京区の松尾文子さん(94)は、料理のボランティアとして訪れ始めたが、今は「趣味の手芸などをみんなで楽しめるのがうれしい」と会話を弾ませていた。また、とねりこの家が07年から京都市の子育て支援「つどいの広場」にもなったことから、乳幼児を抱いた親子も訪れる。長女が生まれた1年ほど前から来るようになったという近くの西野千裕さん(34)は「家でいると娘と2人きり。同じ育児中の母親たちと話ができる」といい、「夜、寝てくれない」など育児の悩みをスタッフに相談していた。

 毎月の誕生会のほか、年間を通じて落語会、講演会、コンサートなどのイベントも行っている。賛助会員などからの支援もあるが、運営資金に苦慮している。「誰でもが気軽に」との開設時の思いから、男性や小中高校生、障害者らにもっと利用してほしいという。週2回、昼食会を開いており、瀧本さんは「男性のお年寄りは最初の一歩が踏み出しにくいでしょうが、一緒に食事をしませんか」と呼び掛けている。

 幼いころ、近所の人や通りがかりの人らが縁側に座り、世間話を気軽にしていた光景を思い出しながら、代表の水無瀬さんは「ほっとできる場として、まちの縁側になれば」と願っている。

とねりこの家
誰でもが気軽に憩い、交流できるサロンとして2004年に開設。運営委員約10人、スタッフ約10人。代表は水無瀬文子さん。京都市上京区一条通新町西入ル元真如堂町。