ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

和太鼓とんとこ

「命」響き合い、深まる絆
年齢や障害超え、結成22年(2017/06/26)


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気持ちを一つに、「打つ、跳ぶ、走る」の練習に汗を流す和太鼓とんとこのメンバー(大津氏際川の滋賀大教育学部附属特別支援学校体育館)

 おなかの底まで震わせるような大太鼓、中太鼓の響き。激しく上下する撥(ばち)の側を、鉦(かね)やうちわ太鼓を手にした親子の一団が輪になって走り、跳び、打つ。6月初旬、大津市の滋賀大教育学部附属特別支援学校体育館で行われた「和太鼓とんとこ」の合同練習。迫力の音響と、ほとばしるエネルギーは、「命の輝き」という言葉がぴったりだった。

 「年齢や障害の程度を問わず、だれでも参加でき人と人がつながっていくのが和太鼓。一緒に楽しむうちに子どもも家族も成長していくのを感じます」。長男(16)、長女(19)とともに練習に参加していたグループ代表の岡本ゆかりさん(49)は、額の汗をぬぐいながら、活動の意義を語った。

 「和太鼓とんとこ」は、大津市内の知的障害児・者とその家族で、1995年に結成された。きっかけは、唐崎地区で開かれた障害者理解の催し。アトラクションの壇上に現れた障害児による和太鼓チーム「TAO」(栗東市)のいきいきとした姿が、同じ子どもを持つお母さんたちの心をとらえた。

 「私たちも親子でやってみたい」と意見が一致。当時、滋賀大教育学部附属養護学校の教諭だった河合弘之さん(62)を指導者に、最初は5家族・10人で活動が始まった。河合さんはグループの現・顧問で和太鼓演奏に習熟していた。

 練習や公演を重ねるうちに分かってきたのは、親子の絆が深まるのと同時に、太鼓を楽しめるようになった子どもたちの変化。声の小さい子どもが大声を出し、見違えるように元気になっていく。参加して5年目の草津養護学校高等部3年、西岡萌さん(18)もその一人。「太鼓だけでなく走ったり踊ったりできるのが楽しい」。母親の敬子さんは「一度、崩れると皆の輪に入れなかったのが、周りの励ましで上手に気持ちを切り替えられるようになりました」と喜ぶ。

 「元気になれる」という評価が定着して結成22年のことし、メンバーは最年少の5歳児を含め36人に膨らんだ。演目も年ごとに新曲を加え、「太鼓囃子(はやし)」など計12曲に。最近は慰問や出張演奏の依頼が増え、「びわこ花火大会」や「三井寺夜桜と光のコンサート」にも参加した。

 10年前からグループの実技指導と演出、作曲までを手がける愛美勝仁さん(和太鼓集団「鼓鐵」会長)「子どもの個性を見極め長所を引き出すのが指導の基本。全体の演奏能力は確実に上がっています」と目を細める。

 練習の成果を発表する場として、定期演奏会が検討され、その第1回目がこの6月18日に実現した。会場のピアザホール(大津市)は300人を超す盛況。熱演が続き最後の11曲目、さらにアンコール曲「ステップ トゥ ザ ワールド」が終わっても拍手が鳴りやまず、演奏会は大きな成功を収めた。

 「定期演奏会を定着させるとともに、近い将来のNPO法人化を目指そう」。メンバーたちは、次のステップに向け踏み出している。

和太鼓とんとこ
1995年、大津市の私立「風の子保育園」に通う障害児と保護者らで結成。「技を磨いて心を磨く」などを目標に活動。昨年、大津市社会福祉協議会やハン六文化振興財団から表彰された。事務局は代表、岡本ゆかりさんの自宅(大津市あかね町)。