京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
|
●広がる 地域の輪 NPO法人「京都難病支援パッショーネ」体調考慮、共に働く安心感
|
|
パソコンでデザイン制作に取り組む「パッショーネ」の利用者たち(立っているのが理事長の上野山さん) |
原因不明や治療法が未確立の疾患で、国が認定する「指定難病」は現在、330種に達する。難病を証明する特定疾患医療受給者証の所持者は2015年度末で約94万3000人。働き盛りの患者たちにとって就労の壁は今も厚い。
「パッショーネ」理事長の上野山裕久さん(49)が、この事業所を開設した動機も「厚い壁に突破口を」と願ったからだった。経理事務の仕事をしていた35歳で指定難病の重症筋無力症を発症。長期入院の後、ハローワークに通った。経理経験を活かせる会社を選び、電話で病気を伝えたうえで面接を希望すると、返事は一様に「うちでは難しいですね」。面接に漕ぎつけた会社はついに一社もなかった。
「同じ体験を持つ難病患者は多いはず。経済的自立へ向け患者同士が技術を磨きながら共に働き、収入を得る場をつくりたい」。手探りのまま、まず京都市下京区で合同会社からスタート。その後、NPO法人に切り替え2013年、右京区の現在地に移った。当初6人からスタートした利用者は現在、26人(20-60代)に増え、これを5人の支援員メンバーがサポートしている。
運営は、利用者と雇用契約を結び、外から仕事を請け負って給料を支払う形態。障害者総合支援法の施行に伴い、新たに難病にも適用された「就労継続支援A型事業所」の認定を受けた。
古い民家を改修した事業所は手狭ながらアットホームな雰囲気が漂う。利用者は、体調に合わせて受注した仕事をこなす。ホームページ作成、データ入力サービスなどのほか、チラシのデザインや草木染め製品にも力を入れている。
草木染めは、染料を採る植物マリーゴールドを事業所の中庭で栽培。淡い黄色に染めたストールなどに仕上げる。主治医の指導などでパソコンを使えない利用者向けの仕事としてすっかり定着した。
「働けるうれしさと、ここで得られる安心感が大きいですね」。潰瘍性大腸炎を患う利用者の一人、北条剛史さん(28)はネットオークションの出品代行やチラシ制作などの担当。病気が原因で就職先を解雇された経験から、心身ともに安らぐ職場の大切さを痛感したという。ここでウェブ関連の技術を磨き、将来は自立して故郷の岐阜県で同様の事業所を開設する夢を描いている。
元気そうに見える利用者も、病状はさまざま。急な休みや遅刻、早退は日常的に起こり、勤務時間は一日5・5時間、週27・5時間を標準にしている。入所は「来る人拒まず」の方針を貫き、最近になって定年年齢を65歳に引き上げた。
将来展望について上野山さんは「経営は厳しく、売り上げ増が最大の課題。今ある商品を伸ばしながら、キャラクターグッズなど新商品開発にも取り組みたい」と話す。
事業所の性格から、難病者に対する一般の理解を広げる活動は欠かせない。漫画を使った分かりやすい啓発パンフレットの配布や、専用ブログを通じ、粘り強く働きかけていくことにしている。