ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

配食ボランティアサービス「あんずの会」

必ず手渡し、笑顔受け取る
学校と連携 生徒の力にも(2017/10/24)


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弁当を届ける配達班。玄関先でしばし会話が弾んだ(10月12日、京都市左京区)

 玄関で差し出された風呂敷包みに、奥から出てきた女性の顔が思わずほころんだ。「ありがとう。いつもおいしくいただいていますよ」。京都市左京区の吉田地区。毎月第2、第4木曜日は「あんずの会」による配食サービスの日だ。

 風呂敷の中身は、できたての弁当。配食に参加している京都市立白河総合支援学校の生徒が手渡し、学校で制作した献立表を読み上げる。うなずいて聞く女性に、そばからエプロン姿の「あんずの会」メンバーが声をかけた。「お変わりないですか。インフルエンザ予防注射の申請は済んだ?」

 配食当日の朝、あんずの会は白河総合支援学校の調理室にメンバーが集まり、約50食の弁当を作る。ご飯とおかずの盛り付けは、生徒たちとの共同作業。てきぱきとむだのない動きで仕上げ、生徒と教職員も加わって契約者宅を1戸ずつ歩いて配達する。特殊詐欺防止などの啓発で警察官が同行する日もある。

 「ただのお弁当屋さんになってはだめよ」。あんずの会メンバーでケアマネジャーの資格も持つ山藤芳野さんは、いつも配達のメンバーに声をかける。「配食は、お年寄り一人一人と顔を合わせる仕事。必ず声をかけ、健康状態や身の周りの変化に目を配ってあげるのが私たちの役割ですから」

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ずらりと並べられた弁当容器におかずを盛り付ける「あんずの会」メンバーと生徒たち(京都市立白河総合支援学校調理室)
 あんずの会は、高齢化率が高い吉田地区で、配食サービスを切望する住民の声に応え2011年に誕生した。活動が長続きするよう、お互いに「できる人が、できる時間に、楽しんで参加する」をモットーにしている。

 開設の中心になったのは、山藤さんら地元の主婦3人。いずれも配食サービスなど高齢者ケアの経験が長いベテランだが、当初は多人数で作業できる調理場がなかなか見つからなかった。

 悩んだ末にひらめいたのが、白河総合支援学校の調理室だった。依頼を受けた当時の森脇勤校長は「ぜひとも使って」と快諾。学校ではちょうど、生徒と住民が交流・連携する地域協働活動に力を入れ始めたところだった。

 スタートから6年のいま、あんずの会の配食サービスには同校産業総合科の生徒ほぼ全員が、なんらかの形で関わっている。弁当づくりや配達、献立表の制作、さらに校内の農園で生徒たちが栽培している野菜は、弁当の具材にも使われる。

 「生徒たちは『自分たちを待っている人がいる。人の役に立っている』という自覚が生まれています。卒業後に企業就労を目ざす彼らにとって、この自己肯定感は大きな力になるはずです」。同校の藤林真紅副教頭は、あんずの会との連携効果に期待をかける。

地域の学校を、自然な形でボランティアの輪に取り込んだことで、あんずの会の行動範囲も広がった。「これからも地域の持っている力を集めて、地域の福祉を支えていきたい」。メンバーたちは、次の取り組みとして、子ども食堂開設の検討を始めている。

あんずの会
2011年設立の任意ボランティア団体。メンバーは40代から70代までの女性約10人。地元の社会福祉協議会などと緊密に連携している。事務所は左京区浄土寺上馬場町117。