ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

あなたの居場所SU(ス) CASA(カサ)

温かな食事と会話 心満たす
触れ合いが生きる力に(2018/01/22)


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ランチタイムは、SU CASAが最もにぎやかになる時間。テーブルを囲んで利用者の談笑が続く(立っている女性が君村代表)

 地域で配食サービスを20年続けた経験があった。近隣コミュニティーの輪からこぼれ、老齢や病気で孤立を深める人々の実情は見知っていた。それでも、弁当を届けた先で、1日に3人から同じ諦めの言葉を聞くのは初めてだった。「もう死にたい」

 「ショックでした。障害のある子どもを一人で育てるなど、3人とも事情を抱えておられた。でも死にたい人を放ってはおけません。家から出て人と接し、悩みを話せる居場所を、弁当より温かい食事を作ってあげたいと…」。8年前、SU CASAを開設した動機を、君村千代子代表(77)はそう話す。

 スペイン語で「あなたの家」を意味するSU CASAは、京都市伏見区の7階建てマンション1階にある。テナント用の広い部屋で、入り口には「よろず相談」の看板。医師らによる医療や薬の相談、絵手紙の教室なども開かれ、年齢や性別に関係なく、だれでも気軽に参加できる。 

 室内は奥に調理場、真ん中に大テーブルを置き、毎週平日の正午から、でき立ての健康ランチ(500円)を提供している。栄養バランス第一で薄味の献立が基本。調理、事務を含め運営は、すべて地元のボランティアが支える。

 1月初旬の木曜日、正午になると大テーブルを6人の高齢者が囲んだ。がんの再発を克服した主婦、脳梗塞から回復途上の音楽家など親しい顔ぶればかり。「最近、また顔色がよくなったわね」「若返ったと言って」。ぽんぽんと会話が弾んだ。かつて、君村代表に「死にたい」と漏らした女性(91)は、自宅からこのマンション上階に移り住み、いまはランチタイムの常連メンバーになっている。

 「ここで人と触れ合う効用は絶大です。みなさんの表情が生き生きしてくるのを実感します。話しながら一緒に食べることが、いかに大切かを知りました」。調理ボランティアで通い始め、今は音楽ボランティアも務める藤井美恵子さん(62)は、人の輪の中で自身も心の安らぎを得たという。

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隣室のデイサービス施設「晴れる屋」。講師による「歌の時間」は笑顔があふれる
 マンション1階の隣室には、同じNPO法人「ちいろば」が運営するデイサービス施設「晴れる屋」が入り、健康ランチはここの利用者10人にも毎日、提供される。7階フロアを占めるキリスト教の「世光教会」は、SU CASAの開設にもかかわり、居場所づくりの活動全般を通じて結びつきが深い。

 開設9年目に入り、運営の課題が鮮明になってきた。安定した資金調達とともに、少ない男性利用者を増やす方策が求められる。試みに、昨年からは一人暮らしの人も参加しやすい料理教室を開講してPRに努めている。

 居場所を求める利用者の選択肢を広げるため、「小規模多機能型居宅介護施設」を新設する計画もある。「晴れる屋」のスタッフを中心に検討され、君村代表も構想を温めてきた。「実現すれば、高齢者にはより緻密で臨機応変のサービスを提供できるようになります」。高いハードルを意識しながら、必要な準備が少しずつ進んでいる。

SU CASA
伏見区の配食サービス「ちいろば弁当」のOB会を母体に2010年に開設。運営はNPO法人「ちいろば」。平日の11時〜15時、居場所が必要な人すべてに開放。支援ボランティアは約35人。京都市伏見区桃山町