ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

京都コスモス

仲間と、できることを高め合う
日本発、障害者シンクロ(2018/03/26)


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5月のフェスに向け、練習でポーズを決める京都コスモスのメンバー(京都市左京区・京都市障害者スポーツセンター)

 日曜日の昼下がり、京都市障害者スポーツセンター(同市左京区)のプールにディズニーのメドレーが流れると、水中で華やかな演技が始まる。泳ぎながら円になったり、美しい隊列を作って前進したり、ポーズを決めたり。体を動かしているのは、日本初の障害者シンクロチーム「京都コスモス」のメンバーたち。5月に開かれる障害者シンクロナイズドスイミングフェスティバルで最高のパフォーマンスを披露するため、何度も曲をかけ、楽しみながらキビキビ演技を合わせる。

 「水の中にいると体がラクで、陸ではできないことができるんです」。20年以上活動を続けている清水麻理子さん(49)は、普段は車いす生活だが水中ではのびのび泳ぎ、終始笑顔を見せる。長年練習を積み重ね、少しずつ少しずつ、泳げる距離が延びてきた。「みんなと一緒につくる演技を見てもらえる場があるのもうれしい」と、5月のフェステ?バルを心待ちにしている。

 京都コスモスは、京都障害者スポーツ振興会が開いていた障害者水泳教室修了生の「いろいろな泳ぎができるようになりたい」という願いから始まった。小学生の時にシンクロに出合い、高校時代には日本選手権3位の競技歴を持ち、小学校教諭だ?た森田美千代さんが指導者として請われ、1983年に発足した。最初は10人程度だったが、現在は20代から70代の約40人が継続的に練習している。92年から開かれている同フェスティバルで演技するのが毎年の目標だ。

 身体障害のある人や知的障害のある人など障害の種別は多岐にわたる。「誰でもできる、やりたいと思?たら一緒にやりましょう、とうたい、いろいろな人がいていい。その人にとってどういうスタートがいいのか、そこから考える」。森田さんの立ち上げ当初からのこだわりだ。

 1人で泳げる人は1人で、1人で泳ぐのが難しい人はパートナーと一緒に演技をする。パートナーとは、介助する、してもらうという関係ではなく、ともにシンクロの演技者。みんなで一つの演技をつくりあげる。

 「グループというより、ファミリーのよう」。両手の肘から先を失い、残された体でダイナミックに演技する岡本のり子さん(74)は、メンバーとの関係性をそう表現する。初めてコスモスに出会った時、「こんな世界があったんや」と衝撃を受けた。「水の中のメンバーはみんな、不自由を感じさせなかった」。入ってみると、「できることを引っ張り出してもらっている」と感じる日々だった。指導者はメンバーを「障害者」でなく「一人の人間」としてみていた。いつしか、ただ泳ぐためのグループではなく、人生において大切な存在になった。

 演技ありきではなく、人ありきで育て合う京都コスモス。「ここは自己表現の場であり、自己の可能性を広げる場でもある」と森田さんは言う。みんなで演技を合わせる楽しさもあれば、できない悔しさもある。また、できた時の喜びもある。そして、そのさまざまな感情を分かち合うチームメートがいる。

(フリーライター 小坂綾子)

障害者シンクロチーム「京都コスモス」
 京都障害者スポーツ振興会が開いていた障害者水泳教室の修了生向けに、1983年に結成。現在、メンバーは20代から70代までの約40人。事務局は、京都市左京区高野玉岡町5番地、京都市障害者スポーツセンター内の日本障害者シンクロナイズドスイミング協会。