京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●広がる 地域の輪 オンライン院内学級
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オンライン院内学級「CA・YO・U」の事務局があるエイドネット事業本部。この日は小学生女児が、エイドネットのオンライン授業を無料体験していた。そばで指導しているのが西岡真由美さん(6月28日、京都市中京区) |
病気で学校を休み長期入院する児童・生徒が、インターネットで講師とやりとりしながら勉強を続けられないか―。「CA・YO・U(かよう)」プロジェクトはそんな着想から2年前に生まれた。
提案したのは、オンラインや個別指導の学習塾を展開する株式会社「キャニオン・マインド」(京都市)取締役、西岡真由美さん(53)。真由美さんは、大学生の息子2人が中学、高校生のころ、続けて指定難病を発病。長期の入退院を繰り返し、全日制から単位制高校に転校を余儀なくされる苦しい体験があった。
「オンライン授業なら、感染症リスクを避けられる。現行の院内学級制度では対象外となる高校生たちの救いにもなるはず」。真由美さんの提案に、夫でキャニオン・マインド代表取締役の博史さん(56)は「教育事業者として社会貢献にもなる」と、開設を決断した。
受講対象を1カ月以上の長期療養者に限り、機材貸与費、受講料とも無料にした。運用から2年経ち、受講者のうちから中高生計3人が在籍校に復学を果たしている。
CA・YO・Uを運用する基礎になったのは、キャニオン・マインド社が2013年からサービスを開始した有料のオンライン家庭教師システム「エイドネット(AiDnet)」。「時間や場所を問わず、自宅での授業を受けられるシステムを」と、博史さんが技術専門家と共同開発した。
システムは、ブラウザーで生徒と講師をつなぎ、会話しながら双方2台のカメラで互いの顔とノートをパソコン上に映し出す。講師は生徒の表情とノートの記述から理解度を見極められる。互いのノートに書き込むことも可能で、隣にいるようなマンツーマンの指導ができるという。
講師は国内外の現役大学生から元教員、社会人まで約500人が登録。生徒は専攻、学歴などの登録情報を見て自由に講師を選べる。受講中は講師のほかにもう一人、進路指導などの教育コーチが付く。英会話なども受講でき、生徒は小学生から社会人まで幅広い。
CA・YO・Uは、器材を含めエイドネットのシステムをそのまま採用した。登録講師の中から、趣旨に賛同した約50人がCA・YO・Uのレッスンを引き受け、1カ月の講義のうち2回を無償奉仕することに同意。運用費には企業や個人からの寄付が充てられている。
「長期入院した生徒は、単位不足などで元の学校に戻るのが難しい。このシステムを生かし、1人でも多く学校へ戻してあげたい」。事務局では運用の狙いをそう話す。
エイドネットの事業本部では、CA・YO・Uと並行して、会社や学校に行きづらい人の居場所となり学習もできる「エイドネットcafe」や、聴覚障害の学生、生徒が受験指導や能力開発を受けられる「DEАF ACADEMY(デフ・アカデミー)」も開設した。先端的な取り組みが評価され、提案者の真由美さんはことし3月、京都府も参画する第6回「京の公共人材大賞最優秀賞」を受賞している。