京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●広がる 地域の輪 京都フルスイングス制限なく野球楽しめる喜び
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練習前には必ずグラウンドで、当日の課題を確かめ合う(11日、城陽市寺田・鴻ノ巣山運動公園) |
鋭いノックの打球が一、二塁間に跳ねた。二塁手でチームのキャプテン、久保内祥太さん(26)が、とっさに体をひねり左手グラブでキャッチ。素早くグラブを右に持ち変え、左手で一塁手へ送球した。「ナイスプレー」。内野手の小林拓真さん(14)ら、チームメートから大きな声が飛ぶ。右手、右足が不自由な祥太さんならではの巧みな身のこなしだった。
4月初旬の日曜日、京都フルスイングスが練習する城陽市の鴻ノ巣山運動公園のグラウンドは、満開の桜がメンバーの動きを見下ろしていた。照明塔に灯が入った後も、走塁などを確かめる練習は1時間以上続いた。
「球を追い始めたら、みんな時間を忘れてしまう。障害なんて関係なく、好きな野球を思い切り楽しめることがうれしいのです。この気持ちを何より大切にしてあげたい」。久保内弘監督(62)は、内向きだったメンバーたちに最近、一歩前へ踏み出そうとする確かな変化を感じているという。
チームは、身体障害者野球の草分けと仰がれる岩崎広司さん(前日本身体障害者野球連盟理事長、3月死去)から久保内監督に強い勧めがあって3年前に城陽市で結成された。神戸市の育英高校野球部出身の久保内監督は当時、長男の祥太さんが所属する別のチームでコーチを務め、岩崎さんからは親しく激励を受ける間柄だった。
4人でスタートした京都フルスイングスはいま総勢15人。身体障害、療育のどちらかの手帳を持つ人のほか、練習ボランティアも加わってチームを支える。
屈託なく野球に打ち込んでいるように見えて、実はメンバーそれぞれに葛藤の日々があった。障害のため中学の野球部や少年野球チームをやめざるをえなかったり、学校でいじめを受け閉じこもりがちになった人もいる。
「社会で制約を受けてきた者同士、野球は制約なしに思い切り楽しもう」。チームの合言葉通り、メンバーは三振してもフルスイングを心がけている。基本重視の久保内監督は「常に全力疾走。礼儀よく、あいさつは帽子を取って」と繰り返す一方で、「ぼくらは一つの家族やぞ」と声をかける。
鴻ノ巣山運動公園で次男、拓真さんの練習を見守った母親、容子さんは「足の障害で中学校の野球部はやめました。このチームで初めて自分を認めてもらい、練習日が待ち遠しい様子。表情がすっかり明るくなった」と喜ぶ。
チームの当面の目標は、8月に開かれる連盟の近畿大会(東地区)で勝ち上ること。身体障害者野球は盗塁とバントを禁じ、打者代走を認めるほかは通常ルールと大きな違いはない。キャプテンを中心によくまとまった今の戦力なら「全日本選手権出場も狙える」と、メンバーたちの鼻息は荒い。
戦力強化と並行して、事務局では共に野球を楽しむ活動趣旨を強調。「野球が好きなら、自分は無理なんて思わず、仲間になってほしい」と、見学や体験希望を含め関西一円から加入者を募っている。