ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

安全な食提供と小児がん支援「トライム」

困難抱える子に笑顔を
レストラン利益の一部を寄付(2019/11/18)


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トライム店内に設置した、子どもたちに人気の大型鉄道玩具の運用や、ランチの献立などを話し合う小川清美さん(右)ら=京都市伏見区横大路西海道

 京都競馬場に近い京都市伏見区横大路西海道の府道沿いに立つレストラン「トライム」は白一色の外観がまぶしい。広い窓の上には「シフォンケーキ&ランチ」の看板文字と、愛らしい一頭のイルカが描かれている。

 店は元看護師の小川清美さんと夫の治夫さん、治夫さんと会社の同僚だった飛川和江さんの3人が共同経営する。従業員は6人。手作りのシフォンケーキと自家製ランチを主力商品に、開業時から売り上げの一部を小児がんの子ども・家族に届ける活動を続けてきた。

 無農薬、無添加で「安心安全な食の提供」を掲げ、障害のある人にも食べやすいメニューを提供。内部をバリアフリーにして、駐車場は車いすの昇降にも対応する。

 清美さんはかつて看護師として京都市内の病院に勤め、その後仲間の看護師らと「トライミー」のグループ名で、難病や小児がんの子ども・家族を対象に心理カウンセラーのボランティア活動を続けていた。

 不自由な入院生活の中でも子どもたちは切実な夢を描いている。「新幹線に乗りたい」「オオクワガタがほしい」などの夢を聞き出し実現させた清美さんも力及ばない時があった。2008年、小児病棟でがんと闘う当時10歳の女児ミカさんから「イルカが見たい」と相談された。担当医師に問うと「他府県まで出かけるには体力はない」。当時は京都市近郊にイルカのいる水族館などがなく、ミカさんは夢を果たせないまま亡くなった。

 店頭に描かれたイルカは、ミカさんを忘れず「困難を抱える子どもたちの、夢の実現を支援し続ける」というメッセージの象徴だ。清美さんは「亡くなった別の男の子のお母さんからあの子の命を喜ばせてくれてありがとうと、言われた言葉がトライムの原点です」と語る。

 店でゼネラルマネジャーを務める飛川さんは6年前、清美さんの活動に共感。「お互い、もう還暦。ここで子どもたちへの支援を資金面から支えられるよう、3人で会社をつくり店を開こう」と提案した。16年夏に合同会社を設立、親族の土地を借りトライムを開店させた。

 「経理一筋に40年の会社勤めでした。いつかボランティアを、と志しながら仕事優先に。退職後はこの店で志を果たしたかった」。飛川さんは決断の理由をそう話す。

 開店から3年、清美さんが作る添加物を一切使わないシフォンケーキは評判を呼び、大型量販店(南区)などでの販売にもこぎつけた。ランチ部門の食材には地域の協力も得て地元産の新鮮野菜を使う。お米は店のそばに広がる田んぼで採れる自家米を使い、田植えと収穫は飛川さんと家族の人たちで行う。

 これから目ざすのは一時休止している小児がん・難病の子どもたちへの直接的支援。営業日を減らし、その分を高齢者ケアも含めたボランティア活動に充てる計画を進めている。

トライム
看護師ら数人のグループ「トライミー」として発足。2007年から京都市内で小児がんや難病の子どもたちを支援する活動を展開。16年に現名称の合同会社を設立し、ケーキとランチの店として再スタート。店内で開く定例のランチライブが人気。同店075(202)6319