ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

臨床美術京の会

多彩なアート 楽しむ工夫
五感総動員 脳を活性化(2020/01/20)


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月例の講座で作品づくりに取り組む参加者と臨床美術京の会メンバー(昨年11月24日、京都市左京区吉田神楽岡町・吉田神社参集殿)=提供写真

 画面を分断するような太い曲線の重なり。無秩序に見えて、全体の構図と色使いが美しい。「絵を描くのは初めてという人が、約2時間の講座でここまで描けるのです」。臨床美術京の会の中川明廣会長(71)は、参加者の描き終えた作品を見せながらほほ笑んだ。

 臨床美術は、アートセラピー(芸術療法)の一つとされる。独自のプログロムに従って、参加者が五感を総動員して絵画や造形などに取り組むことで脳を活性化させる。精神が安定するとともに一つの作品を完成させる幸福感、達成感を得られる、という。

 認知症の症状改善と予防にも有効とされ、社会人のメンタルヘルスケアや、子どもの創造性を育む手法としても国内で普及が進む。

 推進しているのは特定非営利活動法人「日本臨床美術協会」(本部・神奈川県藤沢市)。協会が認定する臨床美術士と呼ばれる有資格者が、現場を担い、京都府内でも数多く活動している。

 「京の会」は、かつて京都市内で開かれていた協会の講座で学び、臨床美術士資格を得たメンバーが集まり活動したのが最初。現在は吉田神社(左京区)内の会場に月1回の講座(定員12人)を持つほか、デイサービス施設や障害者施設などでも開講。ワークショップの要請にも柔軟に応じている。

 通常の講座は1回が2時間。初めにメイン担当の臨床美術士が、まず当日のプログラムに従い、画題を仕上げるまでを説明する。

 「私たち臨床美術士は政策プロセスの説明役者という立場。どんな表現も、すべて参加者さんの個性であり制限はしません。筆が動き画面にその人の個性的な色と絵が現れる瞬間は、いつも感動を覚えます」。同会の創立時からのメンバー、佐々木美也子さんは、そう話す。

 五感を刺激するため音楽も多用される。講座の初めには全員で歌をうたうことも多い。モチーフが果物や野菜などの場合は触れたり、味わってみることもある。用意されるアートプログラムは豊富で、アクリル絵の具、和紙、墨、粘土などあらゆる画材が用いられ、参加者は毎回、多彩なアート体験を楽しめるよう工夫されている。

 講座の締めくくりで重要なのが、鑑賞会。すべての作品を並べ、臨床美術士が1点ずつ意見を述べ、感性の鋭さや表現の豊かさなど優れた点を取り上げる。

 中川会長は「制作過程を通じ、参加者と感じたことを話し合うようにしています。それによりやる気を引き出し、自己肯定感を高めてもらう。どの講座でも鑑賞会の終わりには、『また来たい』の声が聞かれます」と話す。

 会として次に目ざすのは、臨床美術の普及とともに、臨床美術士の地位向上。普及に当たっては、世代を超えた体験会や子どもたち向けのワークショップを増やしていく方針。公費助成制度などを活用した地域交流事業に位置付けていくことも検討している。

臨床美術京の会
日本臨床美術協会所属の認定団体。2011年、「ひらぎのの会」として設立。北区の福祉施設「京都ひらぎのワークスTAO」で知的障害のある人たちを対象に活動を始め、他所での活動も広がり、16年に現行名称に改称した。会員16人。事務局090(3260)6113