ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

NPO法人「ゆりかもめ」

精神障害者の安心な居場所
住民とのふれあいサロンも(2022/02/22)


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ゆりかもめの1階作業室で、社寺用のお守りの製作に励む利用者メンバーたち(9日、京都市左京区一条寺南大丸町)

精神科病棟に長期入院している人の「脱施設化」が叫ばれるようになったのは、今から30年余り前だった。病棟で手厚く保護される環境に慣れすぎると、気力や自発性を失う「施設症」につながりやすい。地域で自立して生活できる力があるうちに病院を出る「地域移行」が重要視された。

京都市左京区では、他に先駆けて脱施設化に取り組む精神科病院の医師や看護師、精神保健福祉士、支援ボランティアの人たちが結集。「受け皿となる居場所を」と1989年、左京区元田中の民家に開設したのが「ゆりかもめ」の前身「ボランティアハウス共同作業所」だった。

開所から30年が過ぎ、就労継続支援B型事業所に生まれ変わった「ゆりかもめ」には現在、30代から70代までの利用者32人が働く。運営理念は「互いの違いを認め合い、自分のペースで自分らしく生活するのを応援する」。うつや統合失調症、発達障害など利用者の病態はさまざまだが、大半の人が地域での自立した生活を望み、ゆりかもめでの仕事にやりがいを見いだしている。

「みなさん、かかりつけの病院があり、デイケアに通う人も多く、1日の仕事時間はそう長くとれません。事情をよく理解してスタッフ一同、苦しい時も常に利用者さんの味方であり続けるよう心がけています。私自身、理解が足らない時もあり、勉強させてもらうことが多いのです」施設長の岡田よし子さん(51)は、そう話す。

施設内での仕事は、箱折りやシール張りなどの下請け作業のほか、ミニ畳などゆりかもめブランドの自主製品作りがある。中でも着物地を使いミシンで縫うスカートやブラウス、小物入れなどの製品は人気が高く固定客も少なくない。着物は支援者などから不用品を寄付してもらい、一度ほどいて反物に戻してから使う。作業室には200本以上の反物が保管されている。

利用者の気分が開放される室外作業の場として小さな畑を左京区内に確保。月2回の農作業日を決め、タマネギやサツマイモなどを栽培して加工・販売したり、施設で調理して全員で味わうこともある。

2007年には、叡電元田中駅近くのマンション1階を借りて喫茶形式の「ふれあいサロンなごみ」を開店した。利用者とスタッフが店員を務め、手づくりのクッキーやケーキ、ゆず茶などを提供。近年は地域住民の利用が増えてきた。

「ゆりかもめは、安心できる居場所であることが第一。そのうえで個々の利用者さんがここで何をしたいのか、できるのかを共に考え、具体的な選択肢を提示したい」。スタッフの一人、藤本通孝さん(42)は、自主性を尊重した自立への道筋にこだわっている。

施設を現在地に移した23年前、町内では転入反対の声があった。それでも、繁忙期の下請け作業を手伝う地元ボランティアグループや着物を提供してくれる住民が現れるなど、活動に対する地元理解は着実に進んできた。コロナ禍で、下請け作業の注文は激減したが、現行の工賃単価を維持しながら新規事業の開発にも挑戦していく、という。


NPO法人ゆりかもめ 
精神障害のある人たち向けの共同作業所として1989年に発足。京都市認可施設となり99年に現在地へ移った。2006年にNPO法人になり、11年、就労継続支援B型事業所に。スタッフ7人。左京区一乗寺南大丸町。TEL.075(721)5941