ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

一般社団法人「暮らしランプ」

「伝福連携」の成功 何としても
文化財活用、共に働く場に(2022/08/22)


放課後等デイサービスや就労継続支援B型事業所などを運営する一般社団法人「暮らしランプ」が、文化財の旧家を活用したおばんざい料理と酒の店「なかの邸」(長岡京市調子1丁目)をオープンさせて3年を迎えた。コロナ禍にあっても予約が取れないほどの人気ぶりだ。

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江戸期の風情を伝える中野家住宅(長岡京市調子1丁目)

「なかの邸」が入る中野家住宅は江戸末期の建築で、2010年に国登録有形文化財に登録された。その後、持ち主から寄贈を受けた長岡京市が、建物の利活用策をプロポーザル公募した。

耐震性がなく、文化財ゆえ間取りの変更もできず、空調も効かない。そんな悪条件に、大手飲食チェーンが手を引く中、暮らしランプが手を挙げた。「障害のある人の職場を広げ、文化財の積極的な活用にもつなげたい」。森口誠代表理事は狙いを記している。

現場を任されたのは森口さんに請われて転職したマネジャーの小林明弘さん(44)。「福祉としてやるのだから、大もうけしなくていい。ある程度の利益が出せれば工賃増に回せる。障害者にも、お客さんにも、スタッフにも、あってよかったね、と言ってもらえる場をつくろう」と考えた。

「福祉」は前面に出さない。客には普段通りに飲食を楽しんでもらい、何かのきっかけで気がつけば障害者手帳を持つ人が働いていた、というあり方を目指した。

とはいえ、障害者が働くうえでの困難もあった。「それぞれ個性があり、できることとできないことがある。複数の作業をかけもつことも難しい」。そこで、レジ、ホール、盛り付け、ドリンク、洗い場などの作業を「一般の飲食店とは真逆」の分業制にした。

このやり方だと1日に大勢の客はさばけないが、それでいいと割り切って人数を制限した。これが予期せず「予約のとれない店」というプレミア感につながった。

当初は、注文したビールがなかなか出てこず、いらいらする客もいたという。「障害者がやっているので理解してください。早い、安いを求めるなら他店へどうぞ、と話しました。今では来店されるのは理解のある方ばかり」

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なかの邸の運営について語る小林明弘さん

文化財ゆえの高額な修繕費を営業収益から賄わねばならないという負担もある。しかし「伝統文化の保全管理を福祉が担うという日本初の『伝福連携』を何としても成功させたい」と小林さん。

暮らしランプの取り組みに共感した京都済生会病院から声がかかり今年6月、新病院にカフェを開設した。障害者2人とスタッフ2人がコーヒーやケーキ、サンドイッチなどを提供する。

「障害者の仕事の選択の幅を広げたい。いろいろな仕事や場があれば、自分に合った、自分にできることが見つかる。それが自立につながる」と小林さん。藍染めのユニホームづくりやコーヒーの焙煎(ばいせん)など、なかの邸を中心に、選択肢は少しずつ広がってきている。


一般社団法人暮らしランプ
長岡京市、向日市、京都市西京区を中心に、障害者の就労継続支援B型事業所や生活介護事業所、グループホーム、居宅介護事業などを展開している。2017年設立。