京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●広がる 地域の輪 就労継続支援事業所「さぽーと」障害者と飲食業界の結び役
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串揚げ店からの業務委託として、食材を1本づつ串に打つ「さぽーと」の利用者(京都市上京区) |
障害者就労と飲食業を結ぶ役割を担っているのが、さぽーとの特徴だ。グループ会社が市内で展開する串揚げ5店の食材を用意する拠点として「セントラルキッチン」を、さぽーと南隣の区画に設けている。さぽーと内では串揚げ会社から受託した作業のほか、経験を積んだ利用者は隣接するセントラルキッチンで施設外就労することもできる。
障害があるため就職が困難な人がいる一方、飲食業界は慢性的に人材不足の悩みを抱える。「両者には裏表のギャップというか構造的には相互関係がある」と、さぽーとの水口千宝(みずくちちほ)代表取締役(30)は話す。
「東京へ行きたい」と夢を抱きながらも働く場が見つからない聴覚障害の20歳女性がいた。実際に店でアルバイトで働くと「熱心ながんばり屋さん」だったということが、水口さんの関心を障害者雇用に向けるきっかけになった。
串揚げ店運営会社の社長を務める夫(30)と二人三脚で経営に関わる中、長時間労働を余儀なくされる従業員の労働環境を改善する必要を痛感していた。開店前から仕込み作業をして営業終了後に後片付け、翌朝にも仕入れが控える。2年前にセントラルキッチン方式を導入した意図は、仕込み作業の8割を店舗での労働から切り離すためだった。
「接客とかコミュニケーションが苦手でもコツコツと丁寧な作業に向いている人もいる。人によって働く内容や時間を分けることで、労働環境を整えることをめざした」(水口さん)。
障害者の就労継続支援事業所のうち、非雇用型のB型に対し、利用者と雇用契約を結ぶA型は賃金を確保するため経営面では一般的に収益確保の苦労がつきまとう。「仕事がみつからない」と悩む事業所が多い。水口さんによると、さぽーとの場合はその例外だ。グループ会社が店の増設を計画しているため、施設外就労や一般企業への就職先など仕事の面で困ることはないという。
障害者の受け入れを制度化している飲食店は現在大手チェーンに限られる。さぽーとのような小さな場でも利用者が経験やスキルを積んで就労への道筋を軌道に乗せれば、他の飲食の中小店・会社も続くと水口さんは考える。施設の見学や体験希望者が増えている。
「他の店や会社に広がれば雇用全体の枠がもっと増える。障害のある人が飲食業にとって大きなプラスになることを発信していきたい」と水口さん。「がんばりたい人をサポートする」。その思いは、福祉でも飲食でも共通している。