ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

排泄ケア用具の情報館「むつき庵」

老いても病を得ても豊かに
おむつ・食・寝る…生活全体に対応(2023/10/30)


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むつき庵で紙おむつを広げる浜田さん(京都市上京区)

医療機関や福祉施設などで排泄(はいせつ)ケアに関わるスタッフによる実践報告会が9月30日、京都市中京区のラボール京都で催された。排泄ケア用具の情報館「むつき庵」(京都市上京区)が催し13回を迎え、全国から看護師や作業療法士など約90人が参加した。

認知症が進行する人の生き生きとした過去の人生をスタッフが聞き取り共有して現在と未来の介護につなげたり、リハビリ時にトイレへ誘導することで生きる意欲が向上したりした例などが報告された。

はいせつケア大賞には、東京都の精神科スーパー救急病棟で、環境改善に向けた看護師の発表が選ばれた。おむつの装着に至る若年者の尊厳を守る工夫が評価された。

西陣の一角に2003年、むつき庵を、浜田きよ子さん(73)が開設して11月で20年を迎える。

むつき庵は相談に応じたり情報を提供したりするだけではない。およそ400種類の紙や布おむつを手にとって試着でき、ポータブルトイレも多数並べる。町家を改修した建物は、玄関からの上がり口や引き戸、風呂・トイレ、手すりなどへの配慮が行き届いている。食べる、寝る、動く、くつろぐ…生活全体にワンストップで対応できるモデルルームの役割を果たしている。

浜田さんは母の介護をきっかけに、特別養護老人ホームスタッフとの勉強会などを通じて福祉用具の重要性に気づく。

排泄面では「おむつから尿が漏れる」「皮膚が痒(かゆ)い」…利用者や家族の悩みに直面した。食事や運動、薬など医療や介護など広範囲にわたるが、それぞれの専門職の知識やスキルではカバーできない。

専門領域を横断して「暮らし全体から対応できる人が育つ必要がある」と浜田さんは考えた。むつき庵開設から間もない04年に「おむつフィッター」の研修を始めた。

現在、北海道から九州まで全国から看護師や介護福祉士、作業療法士などが研修に参加する。医療や住環境、適切な福祉用具などの知識を求める3級を修了した人は約9400人にのぼる。おむつフィッターが在籍して排泄用具を展示する「ミニむつき庵」は、全国23カ所に設けられるようになった。「もっともっとミニむつき庵が広がっていってほしい」と浜田さんは願う。

コロナ禍による身体接触やコミュニケーションの難しさ、慢性的なスタッフ不足など現場にはさまざまな課題が横たわる。困難を乗り越える工夫や模索が示された実践報告会の発表に通底していたのは、「尊厳」「生きる意欲の向上」という考え方だ。おむつフィッターのアドバイスや知見は、実践に生かされていることが報告から伝わる。

「老いても病を得ても豊かに生きる」。むつき庵が西陣で蒔(ま)いた理念の種は、全国に広がり育っている。


排泄用具の情報館 むつき庵 
おむつメーカーとの株式会社組織による「はいせつ総合研究所」が運営している。京都市上京区下立売通黒門西入ル。おむつフィッターは3級〜1級の資格がある。075(803)1122。浜田きよ子所長は「京都新聞福祉賞」「読売新聞認知症ケア賞・奨励賞」「京都府あけぼの賞」を受賞している。