ともに生きる・福祉のページ
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「大人が変われば子どもは変わる」

京都少年鑑別所精神科医
定本(さだもと)ゆきこさん
(2006/08/08)


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 子どもたちによるショッキングな事件が相次いでいます。最近の子どもに特徴的なのは、人と人のコミュニケーションが下手で衝動的であることです。非行少年の多くは、家庭内で傷を受けています。長くそうした子どもを見てきて、子どもの問題というのは、大人の問題であり社会の問題だと感じています。傷ついた子どもの心を受け止め、健康な心の発達を守ってやる。そういう大人が一人いれば、思春期を乗りこえていけるのです。大人が変わっていく努力をすれば、子どもたちは変わります。

《定本さんは、京都少年鑑別所法務技官・精神科医として、非行を犯した子どもたちの指導に携わっている。一九八五年に奈良県立医科大を卒業。大阪の淀川キリスト教病院に勤務したあと京都大学病院精神科に入局。91年から京都少年鑑別所に勤務している》

 15年ほど非行少年を見ていますが、子どもたちのほとんどは家庭内で親の暴力や言葉、態度により傷ついています。一見すごく大切にされているようでも、どこか傷ついている。少年鑑別所で働きだしたとき感じたのは、「ここに来る子どもたちは皆、心に傷を受けている」ということでした。
 それと、社会の経済や文化にも影響を受けていて、少年非行は社会のゆがみを体現しています。戦後の混乱期、高度成長時代、一九八〇年代と、非行の中身は変わっています。現在、また非行が増えていますが、子どもたちに感じるのは人間関係能力が育っていないということ。人と人の言葉のやりとり、表情、身振りなどから、本来、子どもたちは人の思いを読み取る力を身につけていきます。しかし、今はメールや携帯、ゲームに代表されるように瞬間的、視覚的です。そのようにして育つ子どもの心の発達がアンバランスになっている心配があります。

《多くの少年の心に向き合っている定本さんの話は、子どもの発達段階や家族関係、社会のありようなど多方面にわたる。その中で強調されていたのは、大人が子どもにどうかかわるかということだった》

写真  子どもたちは今、大人の消費社会の食い物にされています。鑑別所に来る子どもたちに、一番なりたいものを聞くと「金持ち」であり、うらやましいものも「金持ち」と答えます。消費社会に巻き込まれ、拝金主義が子どもの世界にもまん延しています。子どもの遊びには今、必ずお金がいります。ゲームセンターであり、カラオケ、それにギャンブル性の高いパチンコ、薬物もそうです。本気で非行をなくそうとすれば、そうした大人の消費社会に対する反省が必要だと思います。
 大人はよく「親の心子知らず」といいますが、これは大人が作った言葉であって、本当は「子の心親知らず」と感じます。非行少年は、急にそうなるのではない。いろんなことの積み重ねです。悩みや葛藤、いろんなことを抱えたままでいるのを、ちゃんと大人が受け止めてやる。それにはコミュニケーションが大事です。子育てというのは時間がかかりますし、手間暇もかかります。

《定本さんは、19歳から5歳まで5人の子どもがいる。子育ての苦労を経験し、仕事を通して思 春期の子どもにかかわるなかで、女性問題についても目を向けている》

 出生率が過去最低になり、少子化が問題になっていますが、子どもを産まない女性や、産めない女性の気持ちがひしひしと分かります。今は子どもを育てるにはお金がかかり過ぎるし、将来への不安が多い。女性たちは、安心して子どもを生み育てられる社会とは感じていないのです。
 子どもは親にとっては子宝ですが、社会の宝でもあります。子どもは家庭や学校、地域、職場でいろんな大人に囲まれて育ちます。人生の中で、真っ当な大人に出会えれば子どもは救われます。社会の宝として子どもを大切にする大人が、一人でも増えてほしいと思っています。〈写真・遠藤基成〉

(次回9月3日は助産師 芝原一枝さん)▲TOP