ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
やすらぎトーク
教育も福祉もビジネスも デザインの力を信じて

 みっくすさいだー代表
 柊 伸江(ひいらぎ のぶえ)さん(2008/09/16)

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「デザインで何ができるか考える、これが原点です」(神戸芸術工科大学=神戸市西区=写真・遠藤基成)

 「みっくすさいだー」ってちょっと変わった名前ですが、障害のある人が創作するアウトサイダーアートの魅力とデザインのミックスという意味なんです。

 参加しているメンバーは知的障害のある人たち、大学でファッションデザインを学ぶ学生たち、そして私は大学の研究所の研究員です。障害のある人の描く絵をもとにバッグやTシャツのデザインを私と学生が担当し、通販会社などの企業が売り出す商品づくりに参加しています。

 原点は、障害のある人の絵などに出会ったときの「かわいい」「おもしろい」という直感です。同じことを感じた者が集まって、デザインに生かそうとしたのがきっかけでした。

《柊さんらの活動は、デザイン教育と福祉に足場を置きながら、商品デザインを手がける起業者でもあるという教育、福祉、ビジネスの3つの顔を持っている》

 学生たちは、福祉やビジネスにかかわることで学校教育の枠を超えた経験を得られます。この意味は大きいと思いますし、学生たちの人生の選択肢が広がると思います。

 福祉面では障害のある人たちの経済的な自立に少しでも貢献できることを目指しています。ビジネスの世界では、枠にはまらない自由さで常識を破るアウトサイダーアートの魅力を生かした新分野を開拓したい。デザイン教育、福祉、ビジネスのいずれでもプラスに働く、新たな事業モデルがつくれないか。ずいぶんと欲張りですが、そんな夢を持っています。

《活動の源流をたどると阪神・淡路大震災が見えてくる。目の当たりにした未曾有の破壊を前に、デザインは何ができるのかを問い返し、ユニバーサルデザインの研究に取り組んでいるのが柊さんの恩師だ。それを受けて柊さんたちは、「イーブン」をキーワードにした活動を始める。障害の有無や年齢、性別などの違いは個性のひとつという思いを込めた、誰にも心地よいデザインの発信が目的だ》

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みっくすさいだーのメンバーは、
ほとんどが女子学生だ

 私たちの活動を知った人から、知的障害のある人の作品を生かす活動を一緒にしようという申し出があり、彼らの作品をモチーフにしたタペストリーやバッグなどを展示会に出品しました。それが非常に好評で、ぜひ欲しいという人が現れ、学生たちがあらためて手作りして販売したのですが、これが「みっくすさいだー」ブランドの第一歩です。

 大きな転機となったのは製品化を前提にしたコンペに作品を出したことでした。最終審査ではビジネスパートナーとなるクリエーターを真剣に捜す企業バイヤーの容赦のない目にさらされます。2社が私たちに関心を示し、採用されて商品化が決まりました。

 生産や流通などには専門の業者が参加し、私たちはデザインを担当しました。なにかあっという間の出来事で、2007年3月に商品が発売されたのです。

 バイヤーさんたちは、「ほかにない感じ」「ちょっと未完成な感覚」に従来のプロの仕事とは違う可能性を見いだされたようでした。

《反響は続いている。こういうことはできないかといった話が舞い込んでくる。今は現在の仕事で手いっぱいで、持ち込まれる話を追いかける余裕はないという。しかし、企業でデザイナーをした経験のある柊さんは、将来に手ごたえを感じている。どのような未来像が描けるのかを真剣に模索中だ》

 学生たちは4回生で来春卒業します。みんなが育てたブランドをなんとか引き継いでいきたい。後輩たちが活動を継続していけるように努力しています。商品化されたとはいえ、現状では参加者に還元できる利益はまだまだ十分ではありません。その拡充も課題です。

 企業側の私たちの活動に対する関心は高いと思います。でも、教育と福祉とビジネスを融合するモデルケースはほとんどないのです。周囲の人たちからは、自分たちで道を切り開いていくしかないのよ、と励まされています。

 ファッション業界は、はやりすたりの非常に激しい世界です。使い捨てにはなりたくない。息ながく継続できる内容を確立し、ビジネスとしてもしっかりと基盤を作りたい。何年か後に学生らを受け入れる受け皿ができればいいんですが。

 確かに課題はいっぱいあるのですが、楽しいです。前向きの明るさと楽しみを忘れずにチャレンジを続けていきます。



ひいらぎ のぶえ
1975年、大阪府生まれ。デザイン関係の仕事をしている両親のもとで、ものづくりの楽しさを知る。神戸芸術工科大学・ファッションデザイン科を卒業後、企業のデザイナーに。現在は大学に戻り、芸術工学研究所の研究員。

(次回10月5日は、「『見えない』世界で生きること」の著者、松永信也さん)▲TOP