ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
やすらぎトーク
「その人らしく」を究めたい 排泄ケアを生きる力に
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300点のおむつが並ぶむつき庵。会議で座るのはポータブルトイレだ(京都市上京区)

「むつき庵」代表
浜田きよ子さん(2008/12/16)


 人は老いて介護を受けるようになっても最期まで自分らしく生きたいと願います。ですがその人らしい生活の質を確保しようとすれば、日々の快適な排泄(はいせつ)を抜きにはありえないんですよ。当たり前ですけど、そのことを堂々と語り合える雰囲気は十分あるのかなあと思いますね。

 私はこの見えないバリアーを突き破ろうと、おむつなど排泄用具にこだわり続けてきました。もう20年になります。おむつといえばとにかく漏れないようにという機能重視意識が強く、使われる側の心地よさとかに関心が向いていなかったんです。

 そこでおむつを接点にして、作る側、使う側、使われる側の相談に乗りながらアドバイスする場所、集まった情報が生活の質を確保する製品作りやよりよい使い方に反映できる排泄用具の「情報館」が必要だと考えました。その結実が2003年にオープンした「むつき庵」です。名前はおむつや産着を意味する「襁褓(むつき)」からとりました。

 スタッフの人件費などを確保しながらいつまでも存続するにはどんな形がいいのかで悩みました。答えは私とメーカーが出資して責任を共有する儲(もう)けない株式会社です。今のところうまく機能しています。

《浜田さんは、これまでを振り返って「したかったからやった」ことは無いのだという。「やるべき方向は、やりながら見えてくる」が経験則だ》

 むつき庵には、多くの人に集ってもらうことができました。来る人には介護の専門職の人も多いのですが、そこから大きな課題が見えたんです。

 介護士さんや看護師さんに排泄用具に関する知識が不足している。これではおむつを当てられる側はたまったものではありません。自分がおむつにこだわり続けて蓄積した知識を伝えるネットワーク作りが必要だと痛感しました。それで2004年に「おむつフィッター研修」を始めました。

 研修は有料ですし、参加回数などに応じて3級から1級まで資格を出すといっても、あくまでむつき庵による資格ですから、どれほどの人が来てくれるのかなあと思っていたら、これが意外な人気を呼びました。これまでに3級取得者が1200人、2級が200人になりました。1級の取得も始まりました。

 おむつや排泄用具のきちんとした使い方を教える場所がこれまでなかったんですね。介護現場でもおむつのことで困っているんだなということを、あらためて実感しています。それに研修を終えた人の中から自分が住む地域でもむつき庵を作りたいという希望が多く出されたんです。今では全国に13カ所の「ミニむつき庵」が誕生しています。私がやっていることが必要とされていると、意を強くしました。

《研修では本人本位の視点で生きているその人を見ることが強調される。おむつを自分が実際にはいて使い、当てられる側の気持ちを感じとることも行われる。排泄が人の尊厳にかかわる重要なことであることを知るためだ》



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「その人の細かな個別性を大切にしたい」
(写真・遠藤基成)

 研修内容の裏づけは、私が京都、滋賀にある2つの施設とそこで働く人と一緒にやってきた、排泄をめぐる困難な事例の研究会で得た経験と知識の積み重ねです。寝たきり状態だった人がおむつの種類や使い方などを工夫することで自力でトイレに行けるようになるなど貴重な体験をしました。この現場から得たものを多くの人に伝えたいのです。

《浜田さんはおむつに対する意識改革を目指しておむつのファッションショーを開催するなどアイデアも凝らす。東京で開いたショーでは海外メディアも取材に詰めかけた。多彩な活動の一方で常に立ち返る原点がある。それは今は亡い両親への思いだ》

 母はおむつを当てられると、生きる気力を手放したように1カ月ほどで亡くなりました。あんな風におむつを使ってはいけないという思いをずっと引きずってきました。

 母が亡くなって父は一人暮らしを始めます。脳梗塞(こうそく)で体は不自由になりましたが、最期まで生まれ育った地域で生活することにこだわりました。自分らしく生きるのに重要なのは排泄ケアであることを、父が教えてくれました。

 「やさしく」というのは簡単です。でもその人にとって「やさしい」とは具体的にどう接することなのかをいつも考えます。画一的な答えはなく、介護というのは常に過渡期なのだと思います。それを忘れずさらに模索していきます。



はまだ きよこ
1950年、京都府生まれ。母親の介護をきっかけに福祉用具の選び方、使い方を学ぶ。「排泄ケアが暮らしを変える」(ミネルヴァ書房)、「介護の常識」(講談社)など著書多数。高齢研究所所長。福祉住環境コーディネーター協会理