京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●やすらぎトーク
アトリエインカーブ
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寺尾さん(右)には、独立して自らのアトリエを持ってほしいと願っている |
ここでは彼らは「専門的就労」をしているのです。障害のある人の中には、音楽家もいるはずですし、舞踊家も、画家も。その創造性を引き出す環境を整え、その成果を社会につなげるのが専門的就労です。
ここには常勤のスタッフだけで8人います。僕がまずスタッフに求めたのは彼らの作品に感動し、敬意を払うことです。彼らがやりたいことの準備などはします。でも指示や監督はまったくしません。アーティストにとって天国のような環境をつくり、持つ力を存分に発揮してもらいたいのです。
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「壬生寺のすぐ近くで生まれました。最近は親鸞にひかれ、龍谷大に社会人学生として通っています」(写真・遠藤基成) |
その人の優れているところにスポットライトが当たれば、人は輝きます。それを邪魔しているのは先入観です。障害がある人の仕事といえば単純な作業という思い込みが世間には強すぎるのではないですか。障害がある人への見方、観点を変える。ソーシャルデザインの大きな目的です。
でも一人では限界がある。僕に続く若い人がどんどん出てほしい。今大学の芸術学部で准教授をしていますが、ソーシャルデザインを志す学生を育てるためでもあるんです。
《今中さんとアトリエインカーブの活動を結びつけた原点のひとつは、今中さんが百万人に一人という軟骨形成不全の病を抱えていることだ。建築デザイナーとして社会的評価を得たころ、自分の作品にオリジナリティーがあるのかと深刻に悩む一方で、体調が悪化していや応なく障害者である自分に向き合わざるを得なくなった》
悩んで日本を離れ、フランスで「シュバルの理想宮」に出会いました。これは何の専門教育も受けていない人が33年間をかけて自宅の庭に石を積み上げてつくったお墓です。オリジナリティーはアカデミズムに支配されない人間から生まれると実感しました。そして帰国後、美術を志す障害のある若者に出会ったのです。
デザイナーであり障害者である僕がオリジナリティーの問題に悩み、その答えを得た直後に彼らに出会った。「縁」を感じ、デザイナーとしての自らの「役目」を感じました。それが始まりです。僕にとって障害は、自分が何をすべきかを考えた原点に、常に引き戻してくれる存在なんです。
いまなか ひろし
1963年京都市生まれ。乃村工藝社デザイン部に86年入社、2003年まで在籍。02年社会福祉法人素王会を設立し理事長に就任、アトリエインカーブを開設する。イマナカデザイン一級建築士事務所。大阪成蹊大学准教授。