京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●やすらぎトーク
「麦の郷」理事 伊藤静美さん(2009/05/12)
お金がなくてもあきらめません。土地や資金提供の申し出があったりして不思議とうまくいく。本当に必要なことやったら道は開けます。 いま麦の郷が支援している人々は、障害者だけでなく子どもさんからお年寄りまで千人を超えます。青写真があってこうなったんでないんです。「ほっとけやん」で前へ進んだら、こうなったというのが実感です。 《麦の郷は社会福祉法人一麦会(田中秀樹理事長)が運営する和歌山市や隣接する紀の川市に点在する30を超える施設とその事業や活動の総称だ。始まりは1977年に開設した無認可共同作業所。養護学校卒業生の働く場づくりから対象が精神障害者へと広がり、やがて本格的な就労の場として全国初の精神障害者福祉工場が実現する。一方で障害の早期発見のための乳幼児健診実現の運動が加わり、不登校の児童・生徒や引きこもり青年の支援につながっていく。さらに障害者の高齢化で、在宅での介護や看取りから仲間による葬儀まで幅は広がり、ライフサイクル全体の総合的支援を目指している》 堂々と物言える環境
最初は何も知識がなく、精神障害者への偏見をあおるようなマスメディアの影響もあって私たちも不安でした。でも付き合いが深まるにつれ、きつい症状の一方ですごくやさしい面がある。それを否定せずに大事にしていけば、社会の中でやっていけると感じたんです。 精神障害者の置かれた状況はひどいもので、いったん入院してしまうと病院から出られない。彼らの働く場や生活の場をつくるには、社会に理解を深めてもらわんといけません。そこで1989年に和歌山県全域で精神障害者の社会復帰を進めるキャンペーンをしました。そのときは当事者に前面に出てもらい、本人や家族が堂々と顔を上げて名乗り、自分たちの置かれている厳しい状況を訴えました。そのことの反響は大きかった。運動が進みました。 どう頑張っても私たちには本人の代弁はできません。自分の問題として堂々と訴えてほしい。そして当事者が前に出ることがデメリットにならない環境、自分は精神障害者だとはっきり言っても生きていける働く場や生活の場を作り上げていくことが本当の道だと考えています。 《この伊藤さんらの取り組みをモデルにした映画「ふるさとをください」が、全国で静かな感動を広げている。共同作業所の全国連絡組織である、きょうされん(西村直理事長)の30周年記念映画で、ジェームス三木さんが脚本を担当した。コミカルな笑いも交えながら、「知らない」ことの弊害、「知ること」で地域に生まれる交流と共感が描かれている》 顔の見える付き合い
私たちは地域の理解を得るために、自治会の会員になり自治会や老人会の役員をしたり、地元の定年退職者を麦の郷で雇用したり、地元の人との顔の見える付き合いを大事にしてきました。映画ができて福祉関係の人だけでなく、地域団体の役員さんなどが見学に来てくれるようになったのはうれしいことです。
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