ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
やすらぎトーク

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にぎやかな中で、人としての基本的な安心感を育てる(大津市坂本の元藤さん宅)


新しい「家族」つくりたい 多人数養育やっと実現


日本ファミリーホーム協議会副会長
元藤 大士さん(2009/08/11)



 私は里親をしながらずっとファミリーホームの制度化を目指してきました。それがやっと実現したんです。私の住む滋賀県でも具体化のための予算が付きました。

 同じ運動をしてきた仲間4人が自分がやりたいと手を上げています。予算は1件分なので希望がすべて実現するわけではないのですが、これまでにない新しい形を作っていけるのではと、みんな期待しています。

《親の養育放棄や虐待などさまざまな事情で家庭で生活できない社会的な養育が必要な子どもの多くは施設で集団生活する。里親家庭で育つ子どもはまだ少ない。英国では8割以上を里親が養育しているという。この現状を打開するために昨年、児童福祉法が改正されて小規模住居型児童養育事業(通称ファミリーホーム)が創設された》



里親に第三者が協力

 ファミリーホームは、一部の自治体が先行して制度化していて、それを国が認めたかたちです。これまでの里親ではできなかった多人数(5人以上)を養育できるようになるんです。

 それに里親に協力する第三者が補助者として参加するようになります。里親だけだと子どもと一対一の関係がこじれると難しい場合も多いのです。子どもも、この人には言えないこともあの人には言えるということがあります。いろんな人が居たり、出入りする家庭は「小さな社会」になります。それが子どもが育つのに大切だと、私は実感してきました。

 第三者を通して地域との関係が深まることも期待できますし、透明性も高まります。開かれたホームになれると思いますよ。

《元藤さんが里親になったのは1984年だった。はじめての里子がやってきたのは実子が1歳のころだ。親、姉の家族、実子と里子、そして孫も。出入りはあったが、ずっと大家族の中で実子も里子も「フィフティフィフティ」で育ててきた。妻のやす子さん(60)ともども「やりたがり」という二人は、激しい虐待を受けた子や障害がある子など難しいケースを経験してきた》


「日本の将来のためにも小さな子をしっかり育てたい」(写真・遠藤基成

 家庭は社会体験の始まりで、子どもにとって非常に大切な場です。なのにこれまで日本はあまりにも「施設中心」だったと思います。なかには兄弟が別々の施設で育つケースもありました。

 施設の中で子どもを大人数一緒に育てるのはなかなか難しい。子ども5人程度のやや大家族的な雰囲気が、私の経験上では最もいいのです。子供同士の間で自然に秩序も生まれ、助けあいの気持ちも芽生えます。

 私の実子が不登校になったことがありました。一緒の里子がかつて親からすごい虐待を受けていたことを知り、「人生観が変わった」と立ち直ってくれました。子どもはお互いに育ち合うんです。そんな子どもたちから私たちは元気をもらいながら、自分も成長させてもらったと思います。

 ファミリーホームにはいろんな役割が期待できます。里親の孤立を防ぐ相談やカウンセリングもできる地域の里親の中核的な存在にもなれると思いますし、保育園などとつながって里親としての経験を生かし、24時間いつでも子どもの問題に対応できる場所にもなり得るんですよ。

《元藤さんはちょっと変わった子だった。両親が養子だったためか、小学生のころから血のつながらない者が家族として暮らす「共同体」に興味を抱く。大学卒業後は就職せず、自然農法を学び、比叡山の回峰行者との出会いから青少年のための道場を運営しながら農業をした。福祉の先駆者、故田村一二が描いた理想郷「茗荷村見聞記」に出会って福祉に開眼する》



穴太衆積みにならって

 妻は近江学園に勤めていたことがあり、障害のある子の将来を心配していました。里親をしながら二人で共同作業所をつくり、障害者の働く場や生活する場所を確保するために働いてきました。

 私は福祉は「ゆりかごから墓場まで」だと思います。子ども、障害者、高齢者、すべてに対応できる場所が地域に必要です。

 田村さんは「世の中に無駄なもんはないんや」とおっしゃってました。例にひかれたのが、私たちが今住んでいる坂本で有名な「穴太衆積み」です。かたちも大きさもばらばらの石がそのあるべき位置を占めれば、強く長持ちする石垣になる。子ども、障害がある人、高齢の人たちが安心できる居場所がある地域社会は強い。大規模でなく小規模なそんな居場所が地域に数多くでき、そこにファミリーホームもしっかり根を下ろす。そんな夢を描いています。




もとふじ たかし
1950年滋賀県生まれ。大阪市立大学工学部卒業。滋賀県里親会副会長。大津市里親会会長。NPOさかもとみんなの家理事長。知的障害者授産施設「瑞穂」施設長。