ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

前例がなければ作ればいい

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

【6】私のこれから
言語聴覚士になり、障害児のお手伝いを

青野 浩美さん



 6回続けた連載も、今回で最後になりました。連載を通じて自分が今、何を感じ、何を考えているのかを見つめる良い機会になりました。今回は、見つめた中からつながる今後の夢について書きたいと思います。


第17回日本言語聴覚学会の特別企画「歌と笑いのステージ」でビリーブなどを歌う青野さん(2016年6月11日、京都市左京区のロームシアター京都)
 私は4月から京都光華女子大の1年生になりました。医療福祉学科の言語聴覚専攻に在籍しています。この専攻では、4年間で言語聴覚士(ST)の国家資格取得を目標としています。私たちが4期生で、本年度でやっと全学年がそろった、まだ新しいコースです。もちろんクラスメートはほとんどが18歳です。15歳も下の人たちと一緒に勉強しています。 

 この大学の校訓は、「真実心」です。「真実心」とは、「思いやりの心」のことです。4月から学長講話や授業の中で、この「思いやりの心」についてたくさん考える時間がありました。「思いやりの心」を持つためには、相手を能力で判断するのではなく、そこに居るという存在を認めることであると習いました。私がこの歳で大学に入った理由は、ここにあります。

 全国で講演させていただくと、重い障害を持った子どもとご両親が聴きに来てくださいます。その中で、「この子も将来、お話ができるでしょうか。どうやってこの子のコミュニケーション能力を高めれば良いでしょうか」と質問されることがあります。私は当事者ですので、当事者としての意見はお伝えすることができます。でも、医療の専門知識は持っていません。専門家ではないので、無責任なことを言ってはいけないのです。言いたいけれど言えない…。とてももどかしい思いをしていました。ならば、当事者でありながら専門家になれば、その方々にとってより良いアドバイスをさせてもらえるかもしれない。そう思ったのです。障害が重くとも、そこに存在することに意味があります。そんな子どもたちの生活が少しでも良くなるようにお手伝いできればと思い、大学入学を決めました。この大学が、「真実心」を校訓にしていることは知らずに入りましたが、知れば知るほど入って良かったと思います。

 私の夢はたくさんあります。2回目のキャンパスライフを楽しむこと、毎日元気に大学に通うこと、定期試験やリポートで単位を落とさないこと。言語聴覚士になること、全国に講演に回ること、重い障害のある子どもたちのお手伝いをすること。小さなことから大きなことまで、数えだしたらきりがありません。

 私はこれからもたくさんの方の支えの中で、挑戦し続けます。もし失敗しても何度でも挑戦します。常にありがとうの気持ちを忘れずにいます。子どもたちから教えてもらうことも忘れません。この6回の連載の中で、あらためて自分の思いを整理することができました。そして、これからも大切にしなければならないことや目標もはっきり見えてきました。こんな機会をいただけたことに感謝です。そして、ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます。これからも私は進み続けます。

(青野さんの連載は今回で終わりです。7月から第3月曜に福崎保子さんの「高次能機能障害と向き合う」をお届けします)


あおの ひろみ
1983年生まれ、京都市出身。
同志社女子大音楽学科卒業。同大音楽学会≪頌啓会≫特別専修生修了。 23歳の時に原因不明の神経性難病を発症し、25歳で気管切開をする。 現在、声楽家としてコンサートに出演するほか講演活動を行う。 著書に「わたし“ 前例 ” をつくります」(クリエイツかもがわ)。
京都光華女子大在学中。