お楽しみ情報
京滋のくつろぎスポットをご紹介します。京都滋賀にある素敵なスポットがあれば、ぜひ情報をお寄せ下さい。
(10/12/14)
文・写真 北浦加代子

大覚寺境内の鐘楼

2010年も残り少なくなりました。
今回は今年最後の歳時と縁起物を求め、
旧嵯峨御所と呼ばれる大覚寺と、
奥嵯峨を歩いてみました。


地図はこちらをご覧ください。

年の暮れ
旧嵯峨御所で、除夜の鐘が鳴り響く

大覚寺の大門
皇室関係者でしか通ることができない奥の唐門は
大晦日だけ特別に開かれる
王朝の名残りを残す大沢池

京都の西の観光地といえば嵐山・嵯峨野かいわい。
中でも嵯峨野の地は古くから、貴族や文人たちが都を離れて「わびずまい」をした所で有名です。

師走。田園風景にたたずむ寺を巡りながら、心静かに歩いてみるのも趣があります。まずは市バス・京都バスの終着地点である「大覚寺」から歩き始めます。

大覚寺は真言宗大覚寺派の本山で正式には「旧嵯峨御所大覚寺門跡」といわれています。門跡というのは、天皇または皇族が住職に就かれた寺を指すのだそうで、心経写経の根本道場や、いけばな嵯峨御流(さがごりゅう)の総司所としても有名です。 優雅な雰囲気を漂わせる大門から中に入ると寺格を表す菊花の幕が目に付きます。

境内の東側には、中国の洞庭湖を模して造られたという大沢池が広がり、周囲には松や桜、楓が植えられ、池には天神島や菊ケ島が浮かんでいます。嵯峨御流とは、嵯峨天皇が菊ケ島に咲く菊を手折って瓶に挿した故事に由来しているのだそうです。

はじめて五大堂から池を見ましたが、お月見のころになると、龍頭舟と鷁首(げきす)舟の2隻を浮かべ、水面に映る月を愛でる「観月の夕べ」が催されるそうで、今年もたくさんの人が秋の夜長を楽しまれたそうです。

そして大晦日には、参拝者のために重厚な唐門が開かれ、除夜の鐘をつこうと毎年多くの参拝客が列をなします。通常なら人の煩悩(ぼんのう)の数の108をつく除夜の鐘ですが、ここではすべての希望者が鐘をつくため、深夜2時ごろまで鳴り響くようです。

つき終えた後は五大堂で甘酒をふるまってくれるので、ぜひ体験してみてはいかがでしょう。 開門は11時50分からで、事前の予約は不要です。

 

大覚寺門前から西へ10分ほど歩くと、嵯峨釈迦堂と親しまれる清涼寺。その近くに嵯峨豆腐の「森嘉」があります。腰が強くて、なめらかな白豆腐は、近隣の寺や有名料亭でも人気の逸品。デパートに卸さず宅配もしない森嘉のお豆腐。一つ(2丁分400円)買って帰ることにしました。

清涼寺から西へ進み、 小倉山麓の「二尊院」を経て、大覚寺の塔頭のひとつ「祇王寺」に向かいます。

美しい紅葉で知られる小倉山 二尊院
平家物語ゆかりの祇王寺

深い竹林の中で息をひそめるようにたたずむ祇王寺。まだ少し紅葉は残っていたものの、あたりはすっかり落ち葉のじゅうたんが敷き詰められ、物悲しい雰囲気が漂っています。
散り積もった落ち葉をさくさくと歩いていると、こんな一節が聞こえてきそうです。

祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり
沙羅双樹の花の色 
盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理をあらはす
驕れる者久しからず ただ春の夜の夢の如し
猛き人もついには滅びぬ 
ひとへに風の前の塵に同じ

ささやかなこの草庵で、4人の女性たちは何を思って過ごしたのでしょう。本堂には清盛や祇王らの像が安置され、丸い吉野窓からは柔らかな陽が差し込んでいました。この窓は影が虹色になって表れることから虹の窓ともいわれています。

伝統を受け継ぐ嵯峨の職人たち

その後、二尊院前から南へ竹林の小径をゆくと「紙と織の嵯峨野工房」さんがあります。店内には、はがきや一筆箋をはじめ、ネクタイや飾り組紐など、ひとつひとつ手作業で創られた作品が並べられています。
中でも目を惹いたのが紙布(しふ)すくい袋帯。上質の手漉(す)き和紙を細く切り、撚(よ)った紙糸を手織機で織り上げた作品は、とても柔らかく優しい風合いです。

「破ってごらん」と、和紙のはがきを手渡されましたが、繊維が強く絡まっていて破れません。「昔の人は年末になると障子をはがし、水で濡らして元に戻して使っていたんですよ」と教えてくれました。使い捨てのない時代。改めて昔の人の知恵に脱帽です。

和紙は平安時代から衣料として使われ、戦国時代の武将たちや豊臣秀吉が紙の羽織を着ていたことなどが伝えられているそうです。

「落柿舎」の前を過ぎ、東に向かうと、かわいい柿の土鈴が並ぶお店「おかもと勇楽(ゆうらく)」さんが見えてきます。35年ほど前から信楽の土で柿の土鈴や土面を夫婦で作っておられ「柿は“幸せをかき寄せる”“福を呼ぶ”縁起物です。お正月にお供えするお鏡にも、まん中に6個と外側に各2個柿が並んでいるでしょう。『外はニコニコ、中むつまじく』で、 夫婦円満、家庭繁栄を願います」と、柿にちなんだ縁起話をお聞きすることができました。

 

幻想的な嵐山花灯路に
師走忘れ

今、嵐山では今年最後の行事「京都嵐山花灯路」で大にぎわいです。

日本情緒たっぷりの行灯の「灯り」と、各流派家元等による華麗な「花」で演出された水辺や竹林の小径、歴史的文化遺産などは、幻想的な雰囲気に包まれています。光に照らされた風景を眺めていると、今が師走であることを忘れてしまうよう。

12月19日(日)まで開催されています。

紙と織の嵯峨野工房さん 和紙で織った嵯峨野工房さんのネクタイ
伝統の技を駆使して創られた紙布の帯 たくさんの嵯峨土鈴が並ぶ井浦人形店さん。来年の干支の兎たちも大人気
愛嬌のある鬼の面。色付けは奥様の仕事なのだとか こもった音が鳴る柿の土鈴。鮮やかな柿色が美しい