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差別解消 実現するか

障害者権利条約 批准めぐり賛否
国内法に課題「改正不可欠」の声(2009/06/09)

 政府が批准する方針を打ち出している「障害者権利条約」について、障害のある人たちの間から、障害者への差別解消に追い風になるという評価の一方で、「現状での批准は拙速だ。安易な批准は条約が目指すものを日本国内で実現させることを難しくする」という声が上っている。

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約250人が参加して開かれた京都フォーラム
(京都市中京区)

 障害者権利条約は2006年12月に国連総会で採択され、08年5月に発効した。現在約50カ国が批准している。

 国連が採択、発効した権利条約は多いが、改めて障害者の権利条約が採択された背景には、従来の条約や国際法では世界に6億5000万人いるとされる障害者の権利が守られてこなかったという国際社会の反省がある。

 このため権利条約は障害のある人に本来保障されている権利が保障されていない格差をなくすことを目的としている。

 格差の大きな原因は障害者を一般の社会システムから排除していることにあるとし、社会的な障壁を取り除き、障害のある人が地域で生涯にわたって障害のない人と同じ自立生活を送れるよう求めている。

 条約では、交通機関の利用、情報の収集、裁判、労働、教育など社会生活のあらゆる分野での障害を理由とする不利益な扱いを差別と規定しているのはもちろん、これらの社会参加を実現するための「合理的な配慮」を関係者が行わない場合(過度な負担を課さないという限定はつくが)も差別としている。

 国内では身体、知的、精神の種別を越えた主な障害者団体が集まって日本障害フォーラム(JDF)が04年に発足しており、各地で障害者権利条約の批准と完全実施を目指すフォーラムを開催、京都でも今年3月に開かれた。

 京都フォーラム実行委員会の事務局を務めた日本自立生活センターの矢吹文敏さんは、「障害のある人とない人が同じスタートラインにたつことを保障する内容が、世界の標準となったのは大きな意味がある」と期待してはいる。

 その一方で、日本の法律には障害を理由とする欠格条項があるものなど権利条約とは相いれないものが多くある。条約は障害のある児童が通常学校で学べるよう求め、手話を言語と認定しているがこれも日本の現状とは矛盾する。権利条約を安易に批准する前に、まず明確で強制力のある障害者差別禁止法を制定した上で、国内法を条約の精神に合致するように改正、整備することが不可欠だ」と強く主張する。

 権利条約への障害者団体などの関心は高い。京都フォーラム実行委員会には、障害の種別を越えて32団体が参加した。矢吹さんは「これまでにない画期的なことだ」として、この団結を維持しながら障害者差別禁止法の制定と、千葉県などが先行している自治体での障害者差別禁止条例を京都でも制定する運動を進める方針だ。

 だが権利条約をめぐる論議は広く市民の関心を集めるには至っていない。障害のある人がスポーツクラブ入会や、付き添いがいても旅行ツアー参加を断られたり、会社の会議に手話通訳がつかず出席しても内容が分からないなど日常の差別、偏見はまだ多いのが現実だ。「条約をめぐる論議が高まり関心が広がることで、一人一人が意識を変えてこのような日常的な差別が解消に向かってほしい」と矢吹さんは訴えている。