ともに生きる・福祉のページ
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薬物依存回復への役割

「びわこ家族会」初フォーラム(2006/05/16)


写真  薬物依存症者の家族の集まり「びわこ家族会」が第1回フォーラム「前向きに生きる仲間へ」を、このほど大津市のピアザ淡海で開いた。結成から3年、家族たちは自らの苦しい体験を語り、医師や法律家、回復施設の関係者らが、家族のサポートへ法律知識や知恵を生かそう、と話し合った。
身の回りに迫る薬物依存症へ立ち向かう家族、それに提携する市民運動の一歩が刻まれた。(写真=大津市内の会場で開かれたびわこ家族会の第一回フォーラム)


 冒頭、同家族会事務局長の中川孝さんが「結成からちょうど3年、月1回の例会には4、50人集まり、グループミーティングや講師の話を通して、みんな一緒に健康な心と正常な生活を復活してきました」と、3年を振り返った。続いてVTRにより、この間の映像記録が紹介された。

 講師の滋賀県立精神保健福祉センターの辻本哲士さんは、「薬物依存は、現在、戦後で3番目に増加している」と前置き。薬物依存症者の特徴や、幻覚や妄想、情動不安などの急性期から慢性期を経て、「困り切ってしまう」という底つき体験まで経過症状を解説。依存症者に家族が引きずられたり、振り回されず、「薬物をやめたいと決心したら」協力し、依存症者の脇役から自分自身が人生の主役に立ち直るのが重要だ、と家族会の役割を指摘した。

 ついで家族の3人が体験を語った。ある母親は子どもが頼りがちな自宅を引き払い、回復施設として利用してもらいながら、子どもの回復を待つ心構えができてきたと話す。また、家族が田舎に転居し、ゆったりした生活リズムを築き直し、社会復帰を目指す子どもを見守る例も。さらには「家族会のミーティングで、他の人からの指摘により自分の子どもの依存症状の深刻さに初めて気づいた」と生々しい体験を明かした。

 土井裕明弁護士(大津)は「薬物依存症者を刑務所に入れても、現状では何も解決しない。ダルク(民間の依存症回復施設)のような依存症から立ち直る施設こそ必要だ。社会防衛の考えに立って処罰するだけでは間に合わなくなっている」と法的問題を指摘した。またアジア太平洋地域病的依存研究所の尾田真言さんは依存症者の多くが抱える借金について法的対策を詳細に解説し、法律によっておおむね解決できるとサポート。ついでアメリカでの薬物事犯者に対して治療的な処遇過程を裁判官が法廷で集中的に監督するドラッグ・コート制の実情を撮影した最新VTRを披露した。

 同家族会と提携するびわこダルク施設長の猪瀬健夫さんは17歳から始めた薬物体験に発した波乱に満ちた半生を生々しく語り、現在は「今日一日」と薬物を断ちながら施設の運営に努め、今年度から同施設が共同作業所の認定とともに公的補助金を得られると報告。ついで自立した家族会活動を進める「ナノラン関西」からもメッセージが寄せられた。

 茨城ダルク代表の岩井喜代仁さんは、最近訪問したスペインの依存症回復施設プロジェクト・オンブレをスライドとともに報告。教会に寄託された伯爵の広壮な別荘を利用した同プロジェクトの行き届いた設備、施設は日本の現状と格差があることを鮮明にした。